「現場任せのAI活用」が失敗するこれだけの理由 経営層がすべき“頭の中”の言語化とは(4/4 ページ)

AI導入前から動くべき

 また、効果(After)を測定するためには、適用前(Before)から意識して計測をしておく必要があります。

 Beforeを見ていない場合、後から出せる情報は残業時間くらいしかない、というのが多くの会社によくある話です。そして一般的に、AI活用ができるような優秀な社員は、短縮された時間の分だけ別の業務を依頼されているのが普通です。結果として残業時間も動かず、報告できる数字が何も残りません。

 工数管理システムなどで業務別の工数を細かく申告するようにし、何にどれだけ時間を使っているのかを見えるようにしておく。地味な準備ですが、これをやっていたかどうかで半年後の報告内容は変わります。

 そしてこの準備は、現場の善意では始まりません。工数申告は現場にとって純粋な追加負担であり、後で効果を説明するために必要だという理由を納得してもらうには、それを求める側の権限が要ります。AI導入前から動くべきだという話は、そのまま「経営層が最初に動くべきだ」という話になります。

ボトムアップは、枠があって初めて効果が出る

 ただ、現場の創意工夫が無意味だというわけではありません。実際にAIで業務を変えているのは現場ですし、どの業務のどこにAIが使えるかを最もよく知っているのも現場です。

 ただ、現場が動かせる範囲には境界があります。部門をまたぐワークフローの変更、検証期間の工数負担、浮いた時間の行き先、報告する数字の定義。これらはいずれも現場の裁量の外にあり、決まっていない限り、現場の工夫は個人の効率化として組織の中に静かに吸収されていきます。

 AI活用はボトムアップで進むのか、という問いに対する現実的な答えは、枠が決まっていれば進む、というものだと思います。ゴールが言語化され、計測の準備があり、浮いた工数の行き先が決まっている状態であれば、現場は驚くほど速く動きます。

 逆にその枠がないまま「AIを使え」とだけ言われた組織では、それが一般社員まで届かず、全社の成果として立ち上がることもありません。最初に動くべきなのは、ツールを配る側ではなく、ゴールを描く側です。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで約20社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、ブランディング施策、AX・DXチーム組成などを幅広く支援。

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久松 剛
久松 剛

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者から、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで常時複数社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、広報、AX・DX・FDEチーム組成などを幅広く支援。

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