小寺信良の「プロフェッショナル×DX」

ウクライナで拡散するAI偽情報 「本物の映像」をどう証明するか、AIと戦争が変えた「C2PA」の意義(1/3 ページ)

 C2PAとは、写真や動画といった情報の真正性を示すための、暗号情報である。このデータが格納された情報を検証サイトで照会すれば、撮影者、撮影日時、編集やトリミングの履歴といった来歴が表示される。昨今はさらに音声やPDFといった分野にも応用が広がっている。

 もともとC2PAは、今から約6年前に「Project Origin」として始まったものだ。当時からすでにフェイク写真やフェイク動画の問題が発生しており、これまでは真実であるという証拠のために用いられてきた写真や実写動画の信頼性が揺らいでいたことを受け、米Adobe、英BBC、米Google、米Amazon、米Meta、ソニーなどが参画しているオープンな標準規格である。現在は動画カメラにもC2PA情報が付与できるものが登場しており、技術的な欠落もなくなってきたところだ。

 ただ、当時と現在とでは、生成AIによる成果物のクオリティーが大きく異なっている。当初、AIで生成されたものには特有の違和感を覚えたものだが、昨今は見た目からおかしな点を見つけるのが難しくなってきている。こうした中で、C2PAが果たす役割も少しずつ変わらざるを得なくなってきている。従来こうした署名情報は、偽情報を見破るのに役立つと期待されていた。だが実際には裏と表が逆で、「本物にどう署名するか」が課題となっている。

 10月13日の「Media Provenance Summit Tokyo 2026」は、ABU(アジア太平洋放送連合)が主催し、NHK財団とIPTCが運営に協力して開催された。ここではC2PAの「現在地」ともいえる情報が集まった。今回はそこで語られた内容を整理し、C2PAの今日的な意味づけを考えてみたい。

放送とC2PAの関係

 まずC2PAの役割を考えるにあたり、2つのセグメントを想定したい。1つは、インターネットと放送というフィールドの違いの話。もう1つは、真正性というキーワードをどう捉えるかという話だ。

 情報の真正性に対する重み付けは、ネットコンテンツと放送では大きく異なる。そもそもネットでは、出自が不明な情報を真実であるかのように語ることにちゅうちょしない人たちが一定数いる。面白ければ真実であるかどうかは問わないというスタンスでも人に見せられてしまうのが、ネットの世界である。またうわさがうわさを生み、そのうわさを多くの人が信じることにより、それが事実として定着してしまうケースも散見される。

 一方放送、特に報道においては、ファクトチェックに多くの時間と人材を投入し、真実とデマを明確に分けることが実施されている。テレビは信用できないという人もいるが、情報の信ぴょう性に関して第三者機関の審査もあり、ファクトチェックなしに情報を流布できるような仕組みにはなっていない。少なくともネットとは違うシステムで動いているということは認識するべきであろう。

 すでに情報量としてはネットの方がテレビを上回って久しいが、情報の信ぴょう性に関しては、放送が最後の防衛線という立ち位置は変わらない。放送における真正性は、「glass to glass」、つまりカメラのレンズから視聴者の目に届くまでの全行程がC2PA準拠であることが求められる。ただ、実現までの道のりは長い。

 動画カメラでは、2025年にソニー「PXW-Z300」が世界初のC2PA対応カムコーダーとして登場した。その後、同社は一部のミラーレスカメラや「Cinema Line」にも動画への署名を広げている。ただし、全てのニュースソースがこれで撮影できるわけではない。同社の「Ci Media Cloud」でも、C2PA素材のメタデータを確認できる機能の提供を開始し、さらに英Reutersとの共同展示では、ライブ映像をニアライブで編集まで届けるワークフローを示した。一方放送局に集められる写真は、デジタルカメラの対応機器の増加に伴い、C2PA情報付きのものが増えており、実際に機能し始めている。

 編集ツールとしては「Adobe Premiere」が対応するが、その他の編集ツール、特に報道編集用の専門編集ツールでは対応しない。放送システムとしては、放送局内のアセットマネジャーやビデオサーバ、エンコーダーなどの対応も必要になる。

 つまりやるべきこととしては、

  1. 撮影時に署名する
  2. 組織のIDを使う
  3. コンテンツ管理システム(CMS)が何を保持するかを監査する
  4. ベンダー調達機材の要件にC2PA対応を盛り込む
  5. ワークフロー内でのコンテンツ認証情報の生存率を測定する

 の5つが必要になる。

 さらには放送波に乗った状態、テレビで受信/デコードした時点まで、C2PA情報を残すようになっていなければならない。

 これらは、手段やツールとしては存在するので、いずれは対応可能になるだろうが、フェイク情報の高度化と拡散のスピードに、システム更新がついていけない。

 現時点でできることは、従来の人的方法による情報の真正性確認を行い、放送局から情報が出る際にC2PAの署名を付けることだ。

ウクライナにおける「真実」の重み

 戦時報道ほど、真正性が重要になることは言うまでもない。このサミットでは、戦時下にあるウクライナの公共放送であるSuspilneから、経営委員会委員(制作・技術担当)のDmytro Khilchenko氏とプロダクトマネジャーのKyrylo Iesin氏が登壇し、公共放送における情報の真正性の重要性を語った。

SuspilneのDmytro Khilchenko氏(左)とKyrylo Iesin氏
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