小寺信良の「プロフェッショナル×DX」

ウクライナで拡散するAI偽情報 「本物の映像」をどう証明するか、AIと戦争が変えた「C2PA」の意義(3/3 ページ)

放送波から来る情報の真正性をどう確認するか

 C2PAが活躍できるフィールドは、今のところオンラインしかない。少なくとも、ファイル化された情報を確認サイトへアップロードして照会する、という方法にとどまる。

 では日本において、放送された情報の真正性を、視聴者が確認することは可能なのか。ご承知のように日本の放送は、録画してファイル化できても、それを容易にオンラインにアップロードすることはできない。技術的にも法律的にも保護されているからだ。

 この問題を会場のNHKブースで質問してみた。現状C2PAの仕様には、放送信号に対する仕様はまだ定められておらず、放送波にはC2PAを載せることはできない。よって別のアプローチとしては、「Hybridcast」経由でC2PAに準ずる真正性データベースにアクセスする方法が検討されているという。

 もう1つ、動画自体にエンベデッドする方法としては、画像(または音声)内に電子透かしなどを埋め込み、それを読み出して突合する方法が存在する。ただし、放送でこの方法を実際に試している事例はまだ聞いていないという。そもそも「ファイルに埋め込む」とは、ファイルを閉じなければならない。増え続けるグローイングファイルには適用できない。

 よって放送の場合には、ライブストリーム配信と同様の仕組み、すなわち動画ファイルをチャンク化し、チャンクごとにC2PA情報を埋め込んで送信、受信側で読み出してチェックする方式が応用できる可能性がある。

 ただこれを実働させるには、テレビ側の対応も必要だ。つまり受像機側でC2PAデータを分離し、オンラインのデータベースにアクセスして自動的に突合する仕組みが必要になる。「IBC」ではそうした試作機が展示されたこともあるが、消費者側の負担も当然ある。

 そうしたコストを負担してでも、放送の真正性を確かめなければならないのか、という疑問もあるだろう。国の大統領などのトップが信用できない国家の場合には、国営放送の真正性を確かめなければならないという可能性はある。だがそうした国家では、真正性確認機能付きのテレビは販売が認可されないだろうというジレンマが生じる。

 だが少なくとも、AIの進化により情報の信ぴょう性を確認するコストが跳ね上がっているのは事実であり、写真でのC2PA普及にはいちるの望みを託せる。今後音声、テキスト(PDF)などへの拡張により、ファイル化されているソースの確認コストを低減する方法論として、放送業界への認知が広がることを期待したい。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

小寺信良の「プロフェッショナル×DX」

クラウド活用にリモート編集環境と、映像にまつわるプロフェッショナルの分野にDXの波が押し寄せている。プロの現場で何が起こっているのか。最新のITトピックを小寺信良氏が解説する。

この連載の記事をもっと見る

この記事の著者

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR