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欠陥のあるプロセッサでも機能させる技術、HPが開発

» 2005年06月09日 17時03分 公開
[IDG Japan]
IDG

 Hewlett-Packard(HP)の研究者らは、従来のトランジスタが原子レベルに達した後に性能の限界を超えられる製造技術を開発したと確信している。同社は6月9日、この成果を公表する見込みだ。この技術は「符号化理論」に基づき、信頼性の高い未来のプロセッサ回路を量産できるという。

 この技術は、10年以内にトランジスタに取って代わることを目指した「クロスバーラッチ」研究プロジェクトの一環として開発されたもので、物理学会の6月6日号のNanotechnology誌に掲載される。

 クロスバーラッチ回路はトランジスタではなく、並列に並んだナノワイヤのセットを直角に交差させたものを使う。ワイヤが交差する点がスイッチとなり、コンピューティングに必要な「1」と「0」のビットを作り出す。ナノワイヤは固体チューブで、その幅は炭素原子1個分ほど細いものもある。

 HPが発見した技術は基本的には、たとえ製造上の問題によりクロスバーと回路のほかの部分が部分的に切断されても、シリコンナノワイヤが機能し続けるようにするものだと、同社量子研究所のディレクター、スタン・ウィリアムズ氏は説明する。

 この技術は符号化理論を取り入れ、デジタル信号が明瞭さを失わずにノイズのあるワイヤを通過できるようにする。この理論はベル研究所とマサチューセッツ工科大(MIT)に勤めたクロード・シャノンが考案したもので、データが正確に受け取られるよう、送信されるデータに小さな情報の断片を付加するというものだ

 携帯電話は既にこの理論を利用している。携帯電話はユーザーの声をデジタル情報ビットに分けて送信し、受信側でこのビットを正確に再構築するために、パケットに小さな識別情報を付加している。

 携帯電話と同様のやり方で、この理論を利用して、小さな製造上の欠陥があってもプロセッサが動作を続けられるようにできるかもしれない。

 HPのクロスバーラッチは比較的単純な設計だが、製造が難しい複雑な回路に実装される。クロスバーと回路のほかの部分の接続は、製造プロセスにおいて時々壊れることがあり、HPがデマルチプレクサと呼ぶデバイスを介した回路と個々のナノワイヤとの接続が部分的に切れてしまう。

 これにより、情報のビットが消えたり送信中に混ざったりする恐れがある。しかし、符号化理論を応用してデマルチプレクサに数本のワイヤを加えることで、この問題を避けられるという。

 HPはコンピュータシミュレーションで新しいクロスバー設計を披露したが、この技術を使ったプロトタイプもあるという。この設計は22ナノメートルプロセス技術を使った半導体で最初に採用される見込み。22ナノメートル技術は2016年ごろにプロセッサ業界で採用される見通しだ。

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