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MSの特許訴訟はAppleにも波及するのか

» 2007年02月26日 13時06分 公開
[Joe Wilcox,eWEEK]
eWEEK

 サンディエゴの裁判所の陪審団は2月22日、Microsoftに驚くほどの一撃を見舞った。特許訴訟でAlcatel-Lucent側を支持し、15億2000万ドルの支払いを命じたのだ(2月23日の記事参照)。これは、Alcatel-Lucentが要求していた額の約3分の1だ。

 特許訴訟の支払い命令としては史上最高額となるこの判決が下されたのは、MicrosoftがAT&Tとの別の特許訴訟で、米最高裁での口頭弁論を行った翌日のことだった。

 この2つの訴訟の運命は互いに絡み合っている。一方の訴訟の結果がもう一方にも影響を与えるかもしれない。争点となっているのは、米国で製造され、国外で販売された特許侵害製品の法的責任だ。Alcatel-Lucent訴訟の賠償額の約半分は、Microsoftが国外で販売した製品に関連したものだ。この比率は、Microsoftの売上高の約55%が国外で発生していることと一致する。

 Microsoftは第3の特許訴訟――Eolas Technologiesとのブラウザプラグインをめぐる訴訟――で判例を覆そうとしてきた。同社は控訴して破れ、その後最高裁は同社の控訴を棄却した。この敗北はすなわち、Microsoftが米国外で配布した侵害製品に対して賠償金を支払わなければならないことを意味した。

 Microsoftの状況はAT&Tの訴訟と似ている。米特許法は米国特許に適用され、Microsoftの3つの特許訴訟は271(f)項を争点としている。裁判所はこの項の下、Microsoftは海外で販売されたWindowsによる特許侵害について責任を負うべきと判断した。この判決ではMicrosoftのソフトを、米国で製造され、国外で組み直されたPCのコンポーネントとして扱っている。

 AT&Tの訴訟でMicrosoftに有利な判決が下されれば、Alcatel-Lucentの訴訟および係争中のほかの特許紛争で、Microsoftの侵害行為の責任は縮小されるかもしれない。だがMicrosoftが勝訴すれば、同社が特許侵害に対する賠償金を徴収できる範囲も限られることになる。そうなれば、長期的には実際にはMicrosoftにとってプラスになるだろう。

 「Microsoftは自身が格好の標的になっていることを分かっている」と法律事務所Dewey Pegno & Kramarskyの特許弁護士ステファン・クラマースキー氏は語る。Microsoftは訴えるよりも訴えられる傾向があると同氏は言う。

 Microsoftはルディ・ブルースター判事にAlcatel-Lucent訴訟の陪審票決の棄却あるいは損害賠償の減額を請求する予定だとしている。

 「今回の陪審票決は法律で支持されるものでも、事実に裏打ちされたものでもない」と同社の次席法務顧問トム・バート氏は用意された声明文で述べた。「裁判所による救済を求める。必要なら控訴する」

 これら2件の訴訟にはほかにも似た点がある。特許を侵害しているとされる技術が、Microsoftが開発したものでなく他社からライセンスを受けたものだという点だ。2001年にAT&Tとの訴訟が起こされたときは、MicrosoftがDSP Groupからライセンスを受け、NetMeetingとWindowsのすべてのバージョンに組み込んだTrueSpeech技術が争点となった。Alcatel-Lucentとの訴訟では、MicrosoftがFraunhoferからライセンスを受けたMP3コーデックが問題とされている。

 Alcatel-Lucentは、MP3技術に関連する同社特許のうち2件が、Fraunhoferのライセンスでカバーされていないと主張している。これら特許の遺産に影を落としているのは買収だ。これらは元はAT&Tのベル研究所がスピンオフされる前に開発したもので、ベル研究所を保有していたLucentは2006年にAlcatelに買収される前にMicrosoftに訴訟を起こした。

 Microsoftは、同社はFraunhoferから1600万ドルで受けたライセンスで十分だと主張している。

 これら2件の特許訴訟の違いは、業界への影響だ。Microsoftは、AT&Tとの訴訟で負ければ、業界にもっと広範な悪影響が出ると訴えているが、クラマースキー氏と法律事務所Dorsey & Whitneyの共同経営者ゲリー・アベレブ氏はそれに異を唱えている。

 Alcatel-Lucentとの訴訟では状況が違う。Microsoftが勝っていれば、ほかの多くの企業の勝利にもなっていただろう。

 陪審票決は「われわれにとって、そしてMP3技術のライセンスを受けたほかの多数の企業にとって失望する結果だ」とバート氏は述べている。「この判決は、業界が認める正規のライセンサーであるFraunhoferからMP3技術のライセンスを受けたほかの多数の企業に対しても、Alcatel-Lucentが訴訟を起こす道を開くことになると懸念している」

 AppleとRealNetworksもFraunhoferからライセンスを受けた多数の企業の一部だ。今回の判決は、これら企業にもリスクをもたらし、FraunhoferのMP3ライセンスを脅かす。

 クラマースキー氏は、無料のMP3再生ソフトは多数あると指摘する。Microsoftなど大手の開発会社は適切な対応を取り、法的責任を抑えようとしていると同氏は言う。「Fraunhoferのライセンスを持っているのは、安全を求めてのことだ」

 MicrosoftはAlcatel-Lucentが特許訴訟を起こした企業の1社にすぎない。Alcatel-LucentはDellやGatewayなどのハードメーカーとの間でも係争中の訴訟を抱えている。

 今回の陪審票決により、「にわかに和解に向けた動きが起きるだろう」とクラマースキー氏は語る。

 この陪審票決は、Alcatel-LucentとMicrosoftのほかの取引に疑問を投げかけている。2005年初めにAlcatelとMicrosoftはIPTVに関する包括的な提携を発表した。意外なことに、両社はIPTVソリューションに関して協業していたのに、Alcatelは11月にテキサス州タイラーの裁判所でMicrosoftに対して2件の訴訟を起こし、ビデオ関連の特許7件の侵害を申し立てた。また2003年にLucentが起こした訴訟では、Xbox 360がビデオデコーディングの特許を侵害していると申し立てられている。

 今回のMP3をめぐる訴訟は、「Alcatel-Lucentが当社顧客、そして後に当社自身を相手取って積極的な攻勢に出て始まった知財紛争の一部でしかない」とバート氏は語る。「根拠のない主張から当社顧客を守り続けるつもりだ。先日の米国際貿易委員会(ITC)への申し立てを含め、Alcatel-Lucentに対して、多数の特許を行使していく」

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