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「ニコニコ動画≒ゲーム」説 “ネタ勝負”でレベルを上げろ

» 2008年03月17日 07時01分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「ニコニコ動画は多人数同時参加型RTS(リアルタイムストラテジーゲーム)だ」――日本技芸リサーチャーの濱野智史さんは3月14日、OGC(オンラインゲーム&コミュニティーサービスカンファレンス)で講演し、ニコニコ動画をゲームに見立てて分析した。

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 動画再生画面では、ネタという“弾”が四方八方で飛び交う「ネタ合戦」が繰り広げられていると見る。ユーザーは、テキストという「キャラクター」を操作し、ネタを投下したり、見つけたネタを報告したりする。

 メインのフィールドは動画再生画面。だがそれ以外にも、「タグ」や「時報」「ニコニコ市場」「右上」など、さまざまなフィールドから「ネタ攻撃」が降ってくる。

 ユーザーはまず、攻撃を受けて反応するだけの「レベル1」からスタート。自らも攻撃に参加しながらレベルを上げていく。初心者に優しい「ステージ設計」がニコニコ動画の成功の鍵だと濱野さんは指摘する。

レベル1「ちょww」からレベル4「職人」まで

 単に動画を再生したいだけなら、コメントなどは不要。むしろ邪魔になるはずだ。だがニコニコ動画を「ネタ合戦ゲーム」と見ると、動画は「視線を集中させる“釣り”」で、「シューティングゲームにおける強制スクロールのような役割」。予想外の面白いネタをみんなで報告し合い、強制的に流れていくフィールドで報告するゲームと見ることができる。

画像 レベル2

 ユーザーのレベルは1〜4の4段階で、レベル1は「リアクション」。何気なく動画を見ていたユーザーが突然「弾幕」に襲われ、思わず「ちょww」と書き入れてしまったり、コメントや動画などで“投下”されたネタに反応し、「自重ww」「目から汗が……」「職人ww」などと書き入れたりするのが最初のレベルだ。

 レベル2は、動画のコメント欄だけでなく、タグや「ニコニコ市場」に仕込まれたネタなどを見つけ出し、コメントで報告する「敵情報告」だ。例えば、胸がきゅんとなる歌声が聴ける動画に「きゅんきゅんする」というコメントが付けられた後、「キュンとしたら救心をどうぞ」というネタタグが付く。それを見つけた他ユーザーが「タグ自重ww」といったコメントを付け、タグ欄のネタを報告(敵情報告)する。

画像 レベル4

 さらにそれを見た他ユーザーが「ニコニコ市場」に「救心」を登録。救心を実際に買うユーザーまで現れ、コメント欄には「ちょww救心ww購入者」と「敵情報告」がなされる――といった具合だ。

 レベル3は「補給兵」。面白いネタコメントやタグなどが消えてしまわないようにウォッチし、消えてしまったら入れ直す――といった作業を行ってネタの持続を図るユーザーだ。

 最高となるレベル4は「職人」。コメントをフル活用し、アスキーアートのような文字や絵を描くなど、素人にはできない高度な字幕や「弾幕」、面白いタグなどを作成し、自ら“ネタ元”となるユーザーがこれに当たる。

 ニコニコ動画のユーザーインタフェース(UI)は簡単だ。コメント投稿も、動画直下のフォームに書き入れて「コメントする」を押すだけで終わり、レベル1の初心者も気軽に投稿できる「ヌルゲーマーに優しい」ゲームといえる。だがこの簡単過ぎるUIでレベル4の“職人技”を発揮するのは至難。それだけに職人は尊敬を集め、それぞれのレベルのユーザーが共存共栄できる仕組みになっている。

“タグ合戦”――リアルタイムの戦場も

 “戦い”はタグでも行われている。動画には10個までのタグを付けることができ、誰でも編集・削除可能。動画投稿者はタグにロックをかけ、5つまでなら書き換え不能にすることもできる。

 人気の動画となると、限られた数のタグをみんなが編集しようとし、“タグ合戦”や“タグ炎上”が発生。投稿者に気に入られ、ロックしてもらう「殿堂入り」を目指し、戦いはヒートアップする。

ニコニコから得られる「サービス開発のヒント」

 ニコニコ動画には3つの時間軸が存在する。タグは投稿された後画面をリロードすると更新される「瞬間同期」。これに対して動画のコメントは疑似同期(視聴者が見ているコメントは、過去のある時点で投稿されたもので、リアルタイムではない)、「時報」は、全ユーザーが再生中の動画に割り込み、同じ時間に同じ音と動画を流す完全リアルタイムの「真性同期」だ。

 3種類の時間軸が併存しているからこそ、1つの時間軸(疑似同期のメイン画面)に集中していた際には予想外だったネタに出会いやすいといえ、ズレた時間軸がゲームとしての楽しさを増している。

 オンラインゲームがニコニコから学ぶべきことがあるという。今のオンラインゲーム業界は、「ライトゲーム化」「ミニゲーム化」で初心者を取り込もうとしているが、初心者が好むゲームはミニゲームだけではないと濱野さんは指摘。ニコニコ動画のように疑似同期的な――同じ体験をするために、時間を共有しなくて良い――仕組みや、テキストを打ち込むだけでいいという参加の簡便さも重要と説く。

 Web業界がニコニコ動画から学ぶべきことは、初心者に優しい仕組み作りだと話す。ゲームは初心者が快適にプレイできないと「クソゲー」扱いだが、Webの新サービスはイノベーターやアーリーアダプターに偏り、難しいUIになりがち。さまざまなレベルのユーザーが共存できる「ゲーム的」なニコニコ動画をもっと評価すべきと話した。

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