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「ダビング10を人質になどしていない」「メーカーは“ちゃぶ台返し”だ」 権利者団体が会見(1/2 ページ)

» 2008年05月29日 20時19分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「権利者はダビング10を人質になどしていない」「メーカーの主張は“ちゃぶ台返し”だ」――日本音楽著作権協会(JASRAC)など著作権関連28団体で構成する「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」は5月29日、私的録音録画補償金や「ダビング10」をめぐり、電子情報技術産業協会(JEITA)などメーカー側の主張や、一部報道に対して反論する会見を開いた。

画像 左からJASRACの菅原瑞夫常務理事、実演家著作隣接権センターの椎名和夫さん、日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎さん、日本映画製作者連盟の華頂尚隆さん

 録音録画補償金をめぐっては、いったん合意に向かうかに見えた議論がこう着。6月2日に予定していた「ダビング10」のスタートも事実上、延期が決まった。

 補償金制度のあり方を議論していた文化庁長官の諮問機関・文化審議会著作権文科会の私的録音録画小委員会で、文化庁が提示した案に、JEITAと日本記録メディア工業会(JRIA)の委員が強い懸念を示したためだ(文化庁「iPod課金=補償金拡大ではない」 JEITAと対立 )。

 文化庁案は、補償金の課金対象をiPodやHDDレコーダーなどに広げるという内容。権利者・法学者の委員はこの案に賛同しており、JEITAの委員も4月の小委員会では「文化庁案に沿って、バランスの取れた解を見つけるために真摯(しんし)に努力する」と、案を容認するともとれる発言をしていた。

 だが5月8日の小委員会で、JEITAとJRIAの委員が「補償金の課金対象が際限なく拡大するのでは」と強い懸念を表明。29日に開かれる予定だった小委員会は、「(メーカー側の)一部の委員が最終的な意見を表明する状況にない」(文化庁)ため延期が決まった。

 小委員会で補償金の議論がまとまらないことが、6月2日スタートでいったん合意していた「ダビング10」にも影を落とす。権利者側が「ダビング10の合意の前提として、HDDレコーダーなどデジタル放送録画機器への補償金課金があった」と主張しているためだ。

 小委員会が開かれ、HDDレコーダーへの補償金課金で合意しない限り、ダビング10のスタートは困難。開始時期について議論していた総務省情報通信審議会傘下「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」でもこの日、ダビング10開始について合意できなかったことが報告されており、ダビング10の延期が事実上、決まった。

権利者はダビング10を人質になどしていない

 「権利者は、ダビング10を“人質”に取って補償金の対象機器を拡大しようとしている」――そんな見方もあるが、実演家著作隣接権センターの椎名和夫さんは「権利者はダビング10を人質になどしていない」と主張する。

画像 「なんでわれわれに責任があることになっているのか、分からない」と日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎さん

 ダビング10の実施期日の確定にゴーサインを出すのは「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」であり、「権利者の一存では決められない。検討委員会でゴーサインが出ないのはメーカーが一貫性のない行動を取るためで、権利者のせいではない」(椎名さん)

 検討委員会の「第4次中間答申」では、ダビング10導入の前提として「コンテンツの適切な保護」「クリエイターが適正な対価を得られる環境の実現」について配慮するよう求めていた。

 権利者側は「現時点で、適正な対価を得られるのは補償金しかない」(JASRACの菅原瑞夫常務理事)とし、ダビング10の前提には当然、地上デジタル放送対応レコーダーへの補償金課金が含まれている、という立場だ。「メーカー側が補償金ではない『適正な対価』を主張するなら、第4次答申の議論の時点で提案すべきだった」(菅原さん)

ダビング10はそもそも、「メーカー側の落ち度」からうまれた

 ダビング10はそもそも「コピーワンスのムーブ失敗が頻発し、消費者が多大な不便を強いられている」という問題の解決策として提案されたと、椎名さんは説明する。「コピーワンス問題の発端は、メーカーの落ち度にあった」(椎名さん)

画像 椎名さん

 コピーワンスは、放送事業者とJEITAなどが話し合って決めたルール。「権利者の厳しい要求を守るために決まった厳しいルール」と説明されることもあるが、「そもそも権利者は、コピーワンスを策定する話し合いに関与していない」(椎名さん)

 だがムーブの失敗で録画したコンテンツが消失してしまうなど使い勝手の悪さが問題となり、ルール緩和を考える際に「たまたま『権利者の厳しい要求によって定めたルールと言われてしまった』ことから、権利者として検討会に呼ばれ、ダビング10の策定にも関わることになった」(椎名さん)

 「権利者にとってダビング10問題は、コピーワンスという筋の悪いルールを作ったメーカーの不始末の尻ぬぐい。ここにきてまた、メーカーは放埒(ほうらつ)な主張を繰り返し、ダビング10実現を危うくしている」(椎名さん)(「ダビング10」はコピーワンスの緩和か

とあるメーカーが、策を弄した

 JEITAは録音録画小委員会の議論で当初から、「デジタル録音・録画機器は補償金の対象にすべきでない」と主張し、権利者側と対立していた。だが、4月の小委員会で態度を緩和。「補償金は将来は縮小するが、暫定的措置として、iPodやHDDレコーダーなどには課金する」という内容の文化庁案について、容認するともとれる発言をしていた(「JEITAの変化を高く評価」と権利者団体 HDDレコーダーやiPodへ補償金課金目指す)。

 「JEITAの内部でも、コンテンツに対して一定の理解があり、補償金問題を解決させようという人が、案を容認する方向で説得に当たって下さったと聞いている。権利者がJEITAに対して提出した公開質問状に、JEITAの会長から丁寧な返事をいただくなど、説得がなされている兆しは、折に触れて感じていた」(椎名さん)(JEITA・町田会長、文化庁案を「貴重な提案」と評価

 だが5月8日の小委員会で、JEITAの委員は再び「文化庁案では、補償金の対象が際限なく拡大されるという懸念を払拭できない」と、強硬な姿勢を示した(文化庁「iPod課金=補償金拡大ではない」 JEITAと対立)。

画像 資料では「ちゃぶ台返し」を顔文字で表現

 「とあるメーカーが、極めて原理主義的に拒否反応を示し、これまでの議論も学習せず、さまざまな策を弄(ろう)して多数派工作を行った結果、と聞いている。メーカー側がやっていることは“ちゃぶ台返し”だ」(椎名さん)

 加えて「これまでサイレンスだった経産省というプレーヤーがいきなり参入してきた」と指摘する。「『文化庁案の受諾は難しい』という方向で経産省が動いていると、報道などを通じて聞いている。文化庁案を十分に理解しないまま、とんちんかんな対応がうまれている」(椎名さん)

メーカー側の懸念は理解不能

 JEITAなどメーカー側は5月8日の小委員会で「文化庁案では、補償金の対象が縮小するという保証がない」「文化庁案ではHDD内蔵の一体型機が新たに課金対象に入るが、一体型機はPCのような汎用機と区別が付きにくく、いずれPCが課金対象に加わるのでは」といった懸念を表明している。

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