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「ライフネット生命」――たった2人で始まった、営業ウーマンいらずのネット保険(2/2 ページ)

» 2008年08月11日 07時00分 公開
[西川留美,ITmedia]
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 彼は当時ハーバード経営大学院に留学しておりブログ「ハーバード留学記」を執筆していた。それをたまたま谷家氏が読んでいて、2005年12月にボストンに出張した時に呼び出して食事をし、2人は意気投合。谷家氏はなんと配属先も決めずに岩瀬氏を採用することに決めた。ちょうどそんなタイミングだったため、岩瀬氏が出口氏のパートナーとして紹介されることになったのだ。

 2006年4月、岩瀬氏が帰国し、パートナーとなる2人は初めて出会う。そしてその7月、親子ほど歳の離れた2人の生命保険立ち上げ物語が幕を開けた。なお、当時の岩瀬氏のブログには、父親ほどの歳の出口氏と仕事をすることの不安が綴られている。

 2006年8月に谷家氏から、彼の親友でもあるマネックス証券社長の松本大氏を紹介してもらう。松本氏も「面白そうだ」という反応を示し、その結果、10月にあすかアセットとマネックス証券から5000万円ずつ計1億円の出資を受け、生命保険準備会社「ネットライフ企画株式会社」が設立されることとなった。

商品は2つだけ

画像

 同社の商品ラインアップは定期の死亡保障と終身の医療保障のみで、いたってシンプルだ。保険料計算もネット上で簡単にでき、そのまま申し込みまでネット上でできる。他社でも技術的には可能であるはずだが、ネット上で概算は出来ても、結局は個別に見積もりを出してもらう必要がある。

 たとえば記者の場合、生年月日を打ち込み、加入している生命保険の条件よりやや手厚い保障内容にして計算するとこうなった=写真=。それでも今入っている保険料より1000円は安い。他の会社の見積もりとも比較したが、数千円高い保険もあったので、少なくとも1000円以上の差はあるようだ。営業担当者の人件費を削った分、保険料を抑えられるようだ。

父も母もいない会社に

 ライフネット生命の特筆すべき点はもう1つある。それは株主構成だ。

 同社の株主の中には、生命保険会社や大株主がいない。金融機関の免許申請をするには、生保や有力な大株主がいたほうが当局としても認可はしやすくなるはずだ。しかし、出口氏には強いこだわりがあった。「父(生保)も母(大株主)もいない会社にしたい」と。

 保険会社は子会社の保険料には口を挟みたがるだろうし、大株主は自分たちの都合で会社を動かしかねないと考えたのだ。

 出口氏には日生時代の経歴から、当然ながらメガバンクとも親交があった。だが、その人脈を使うことは封印した。「谷家さんに出会ってから、この人とゼロから会社を作るんだと決めていました」(出口氏)。全部理屈で議論して考えようと思っていたのだ。谷家氏や松本氏に相談をしつつ、同社の理念に共鳴してくれる株主を探そうと、相手先の現場の若い人を紹介してもらい、1社1社プレゼンして回った。

 そこで選んだ株主の1つが新生銀行だ。出口氏には三菱東京UFJ銀行との人脈もあり、周囲には「なぜ三菱にしないんだ」と疑問を投げかけられることもあった。それでも新生にしたのは、マーケット調査の結果だった。また、同社の株主にはイトーヨーカ堂の名もあるが、異業種、それも流通系が生保の株主として名を連ねているのは異例のことだ。とはいえ、どの株主も議決権が発生する「大株主」のパーセンテージまでには至っていない。あくまでもライフネット生命は独立性を確保したかったのだった。

 「父母がいらない会社に、と決めたからには、徹底的に理念にこだわり、原則を大事にしようとしたんです」(出口氏)

画像 オフィスの様子

 金融庁に対しても同じだった。出口氏は日生時代12年間もMOF担(対大蔵省折衝担当)を勤めており、金融庁官僚の中には知り合いはたくさんいる。だが、同社の申請時には、窓口として紹介された担当者以外の金融庁職員とはまったく顔を合わせていないというから、潔癖にもほどがある。

 同社の開業日は今年の5月18日。日曜日だ。ネット企業であるとはいえ、日曜日に開業する会社は珍しい。

 その日、コールセンターへ最初にかかってきた電話は、出口氏が対応したのだという。「『おはようございます、社長の出口です』と言って出たら、向こうは驚いて『社長さんですか。ご苦労様です』と言ってましたね(笑)」

 7月25日には第1四半期業績が発表された。開業して1カ月半で約900件の申し込みがあったという。目標は5年以内に15万件以上の保有契約達成だ。

 出口氏に目指している人物を聞くと「ペルシアのダレイオス1世とモンゴル帝国のクビライ」と即答した。世界の枠組みを決める人、言い換えれば「グランドデザイナー」としての彼らにあこがれているという。

 日本に留まる気はない――そんな意気込みの裏返しなのか。旧態依然とした現在の日本の生保業界へのアンチテーゼであるかのようでもある。

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