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「もうからなくても、愛してるから」――オタク社長のアニメ・漫画・ゲーム求人サイト(1/2 ページ)

» 2008年11月04日 15時41分 公開
[宮本真希,ITmedia]

 高校生のころ「自分には才能がない」と気付いた。同人サークルで漫画を描いていた清水有高さん(29)は、漫画家やアニメーターになる夢をあきらめた。

 「人を感動させる作品を作りたい」という思いは捨て切れなかった。大学生になり、将来について悩み、ふと思った。「30億円くらいあれば、あの宮崎駿監督や押井守監督、庵野秀明監督に作品を作ってもらうこともできるのかな」

 目標は「稼いだお金で世界一のアニメを作ること」に変わった。大学在学中からベンチャー企業でがむしゃらに働き、アニメや漫画、ゲーム業界に特化した求人サイト「ラクジョブ」を運営するビ・ハイアを27歳で起業した。

5万9800円のLDボックスを買うために新聞配達

画像 ラクジョブ

 3歳から絵画教室に通っていた。アニメーターか漫画家になりたいと思ったのは12歳のころ。当時テレビ放送していたアニメ「NG騎士ラムネ&40」に感動したのがきっかけだ。

 自宅にはビデオデッキがなく、録画して見ることができなかった。「大好きなラムネ&40の最終回が1回しか見られないなんてと絶望していた」

 13歳のころにラムネ&40のレーザーディスク(LD)ボックスが発売され、どうしても手に入れたいと思った。だが5万9800円と中学生には途方もない価格。LDボックスとLDプレーヤーを買ってほしいと親に頼んでみたが、即却下された。

 あきらめきれず、新聞配達のアルバイトで購入資金を稼いだ。1年かけて30万円を貯め、ラムネ&40のLDボックス、LDプレーヤーとテレビ、スピーカーを手に入れた。「LDボックスを買えたときのうれしさは今でも忘れない。買ったその日に14時間かけて全話見た」

 今でもカラオケに行くと必ずラムネ&40の主題歌を歌う。

漫画やゲームが欲しくて、毎朝4時起きで新聞配達

 ラムネ&40を知ってからアニメやゲーム、漫画にのめり込んでいった。中学1年の後半から卒業まで不登校。高校は通信制を選んだ。家にいる時間のほとんどを、アニメを見たりゲームをしたり、漫画を描くことに費やした。

 新聞配達のバイトは高校卒業まで続けた。1部を1カ月間配ると約300円。休刊日以外は毎朝4時に起き、自転車で8種類の新聞を配った。給料は月3〜5万円ほどだった。

 配達途中の冬の朝、眠気を覚ますため、降り積もった雪に顔を突っ込んだこともあった。「そのまま雪の上で寝てしまい、震えで目が覚めた。凍死するところだった」

 休みは1年に12日間だけ。それでも続けられたのは、アニメのLDやゲームソフト、漫画を買いたかったから。バイト代はそれらにすべてつぎこんだ。

「自分が一番絵が下手だと気付いた」

画像 ひこね読本

 「ラムネ&40のように人を感動させる作品を作りたい」。漫画家かアニメーターになりたかった。同人サークルで漫画を描いたり、コミックマーケットで作品を売ったこともある。

 高校3年生のころ、漫画やアニメが好きな仲間の中で自分が一番絵が下手と気づき、夢をあきらめた。芸術大学に行きたかったが学費が高かったこともあり、地元の滋賀県立大学に進んだ。「漫画家やアニメーターになれないなら、出版社に入って編集者になろう」と新しい目標を立てた。

 滋賀県立大学は1995年創立。入学当時はそれから3年目の若い大学だった。「大手出版社で働くOBがほとんどいない大学から出版社に入社するためには、人と違うことをしなければ」と考え、新聞部を立ち上げた。

 新聞部では40ページある新聞を毎月発行し、記事の編集やデザインを担当した。地元の喫茶店などを紹介したタウン誌「ひこね読本」など10冊ほど自費出版もした。

 3年の2月ごろに出版したひこね読本は、数人の仲間と取材・執筆・編集・デザイン・写真撮影などを分担し、学生だけで2年かけて完成させた。デザインや編集のほとんどは清水さんが担当。完成前の3週間は3時間睡眠という日が続いたという。仲間と書店を回って置いてもらうよう頼み、2500部を売った。

 周囲の3年生は就職活動を始めていた。だが清水さんは、目標だった出版社の採用試験を1社も受けなかったという。「ひこね読本を完成させて燃え尽きてしまった。書店営業があまりに大変だったので、出版社に入るのが嫌になった。この程度で燃え尽きてしまうということは、本気ではなかったんだと思う」

 将来について思い悩んだ。妥協して就職するのも嫌だが……ふと思った。「30億円くらいあれば、あの宮崎駿監督や押井守監督、庵野秀明監督に作品を作ってもらうこともできるのかな」

 目標は「アニメを作れるくらいのお金を稼ぐこと」に変わった。

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