迅速な対応はなぜ可能だったのか。1つの要因は、グループ会社で喫茶店「珈琲館」などを運営するUCCフードサービスシステムズが、昨年11月から公式アカウント「上島珈琲店なう」(@ueshimacoffee)を運用していたことにある。
UCCグループEC推進室の坂本晃一室長は、上島珈琲店なう開始にあわせ、いくつかの準備をしていた。まず、Twitterについて上島社長に説明した上でスタート。リスク管理体制もある程度築いた上で、Twitterユーザーの特性を見ながら丁寧に運用していたという。
上島珈琲店なうでつぶやきを担当しているのは、UCCフードサービスシステムズの女性だが、(別会社の)UCCが、運用を監視したり、つぶやきに関する相談を受ける体制にした。「Twitterは1人でやっていると心が折れることもある。別部署にオブザーバーがいた方がいいだろう」と考えたためで、坂本さんも普段から相談を受けていたという。
炎上を把握したのも、つぶやき担当の女性からグループEC推進室に報告が入ったことがきっかけだ。上島珈琲店なう開始以来、Twitter上の「UCC」「上島珈琲」などの書き込みを監視していたことが、事態の把握を早めた。
「UCCは食品会社なので、(食品の問題などが現場から上にすぐに伝わるよう)緊急連絡体制を作っていた。上島珈琲店なうで、あらかじめリスク対応の大まかなアウトラインを決めていたことも役に立った」と坂本さんは振り返る。
謝罪文のプレスリリース公開が早かったのは、偶然、当日午後1時にグループの経営会議が開かれたためだ。坂本さんは会議冒頭、経緯と関連ツイートをまとめて報告。上島社長が「すべての情報を正直に出して謝罪する」と即決し、午後3時20分に謝罪文を公開。Twitterですぐに広まったほか、ブログ、ニュースサイトなどに取り上げられて対応の早さに驚く声も挙がり、騒動はいったん収束した。
坂本さんは一連の流れを振り返り、「当初から、失敗に対して誠実に向き合おうと担当者から役員までが考えていた」と話す。迅速な対応ができたのは偶然が重なったためで、「ソーシャルメディアとの付き合いはこれから」。今後Twitterをマーケティングに使う企業に対しては「偶然に期待をせず、意図的に、リスクに対して最初の設計を決めていただきたい」と期待する。
NTTでIR担当を務めたこともある徳力さんは、「UCCの対応は、正直、早すぎた」と驚嘆する。「NTTのIR担当時代に、大企業でニュースリリースを出すたいへんさを実感している。普通の企業にはできない早さですごいと思うと同時に、自分が逆の立場だったらできるだろうかと」
“類焼”もあった。マーケティング炎上の翌6日、「キャンペーンを請け負った代理店はどこか」という話題がネットで盛り上がり、まったく関わりのないサイバーエージェントの名が挙がったのだ。
「当社の名前がまことしやかな形で出ている」――サイバーエージェント技術部門担当取締役の宇佐見進典さんも気づき、様子を見守っていたという。6日午後7時半ごろ、知人を通じて自社が関わっていないことを確認。「“消火作業”をしないと」と考え、午後10時ごろ「やってないことを証明するのは難しいです」とつぶやいた。
自社に関連する内容をネットに書き込むには広報を通すのが筋とも考えたが、「手続きが面倒と思った。トラブルがあれば、自分が怒られればいい」と、自分で責任を取るつもりでツイートしたという。
このツイートは次々にRTされて広がり、サイバーエージェントの濡れ衣を徐々に晴らした。「黙ったままだと仮説が事実化されていくという恐ろしさを目の当たりにし、やってないことは『やっていない』ときちんと言うことが重要と思った」と、宇佐見さんは振り返る。
「心苦しかった」――6日午後10時ごろ、ネット上でサイバーエージェントの名が挙がっていることを知り、坂本さんは悩んでいた。「キャンペーンはすべてUCCの責任。サイバーエージェントはまったく関係ない」と、3つの“消火”法を考えた。
(1)翌7日にもう一度プレスリリースを出して説明する、(2)UCCのTwitterアカウントを取り直して説明する、(3)騒動を受けて一次停止していた「上島珈琲店なう」のアカウントで説明をする――だ。
だが他社が関わるうわさをプレスリリースで否定するというのも不自然。Twitterで炎上した後に新たにTwitterアカウントを取るのも避けるべきと考え、上島珈琲店なうでつぶやくことを選んだ。「本来なら広報を通さなくてはならず、社内の規定は超えているが、わたしが責任を取るということで“フライング”した」(坂本さん)
6日深夜に書き込んだ謝罪ツイートは好意的に受け止められ、“犯人探し”も落ち着いた。
上島珈琲なうのアカウントは、週明け7日午前10時から本格的に再開。「これからも頑張ってつぶやいていきますのでよろしくお願いします」とツイートしたところ、その直後からはげましのリプライが次々に寄せられた。
「つぶやきを再開すると再び炎上するのではという不安があったが、温かいメッセージをいただいた。つぶやき担当者は目を真っ赤に腫らしはらしながら見ていた。わたしも後ろで見ていてウルっとなった。いまこうして話しながらも胸に来る。温かいファンに助けられた」(坂本さん)
本来なら広報を通すべき内容を、坂本さんと宇佐見さんがそれぞれ自己責任でツイートしたことが、類焼の迅速な鎮火につながった。
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