東京大学は昨年秋、「Coursera」に国内で初めて参画した。第1弾として、村山斉特任教授による「ビッグバンからダークエネルギーまで」、藤原帰一教授による「戦争と平和の条件」の2コースを配信し、世界約150カ国から計8万人以上の受講生を集め、うち5000人が基準を超える成績で修了した。たった2カ月で東大の全学生数(約2万8000人)を超える受講者を集め、全留学生(約3000人)を超える修了者を出したことになる。
「ビッグバンからダークエネルギーまで」の受講者を見ると、米国からの受講者が約25%、続いてインド、英国となっている。日本からの参加は3%弱に留まった。年齢は、中高大学生の若年層、50代以上のシニア層がそれぞれ4分の1程度で、半数程度が社会人。最年少は8歳、最高齢は92歳となった。大学進学前を控えた若年層には進路選択の際の有力な指針に、シニア層には知的好奇心を満たすために、ビジネスパーソンには専門性アップデートや隣接領域の理解に、とそれぞれ受講する理由や魅力が異なるのもMOOCの面白さだ。
山内准教授は「学生ではない層にこれだけリーチできているのが重要」と話す。「『2年や4年で有料』の機会であるこれまでの大学や大学院では難しくても、『1〜2カ月で無料』であれば積極的に学びたい層が潜在的にこれだけいた、大学教育を届けられる先がまだまだある」と期待を寄せる。
講義の映像配信というと、それぞれ視聴し独立して勉強するイメージがあるが、実際にオンラインで行われているのはグループ学習だ。講義ごとの掲示板は「自己紹介」「講義内容」「宿題」などのカテゴリに分かれており、日々積極的にやりとりが行われていた。
「ロンドンのプラネタリウムで働いています」「専門は機械工学ですが、興味があるので」「NYに住む子育て中のママです、家で何もしないと張り合いがなくって」「ホームスクールに通っている高校生です、この講義が理科の単位になる予定」「パキスタンの12歳です」――世界各国からの自己紹介には「それぞれの人生において、学ぶ理由があるんですよね」(山内准教授)
「宿題」のスレッドでは、1人の質問に対し、他の受講生が手描きのイラストで解説したり、参考になりそうなURLや動画を紹介したり、時には議論を戦わせながら学びを深めていく。一定の受講期間をあえて区切った時限コミュニティーを作ることで、よりリアルな「クラス」に近い形となり、1人ではなく集団で学習している感覚を持てることこそがこれまでの教育資料の公開と異なる重要な要素だという。
クラス意識の強さ、人とのつながりを重視する傾向はリアルな触れ合いを生んでいる。近くに住む受講生同士で集まり、講義内容やそれぞれの興味関心について話すオフラインの“勉強会”であるミートアップも世界各地で盛んに自主開催されている。学ぶ意欲があり、興味分野が近いという安心感も後押しする。掲示板をのぞくと、米国の各都市はもちろん、フランス、レバノンなどでも開催されていた。講義自体は英語で開講されているものの、受講者の半分以上がノンネイティブであり、母語が同じ人とより詳細にコミュニケーションしたいという側面もあるようだ。
今回の2コースでは、講師側も参加するオフィシャルミートアップを東大学内で開催した。受講生からの反響は大きく、遠くはブラジルからの参加応募もあったという。年齢や国籍、職業や学ぶ理由も異なる参加者同士がすぐに打ち解け、1つのテーマについて熱心に議論する姿に新たな教育の形として手応えを感じたと山内准教授は話す。
昨年の成果を受け、今年はCourseraにさらにコンピューターグラフィックスとゲーム理論に関する2コースを増設。ハーバード大とMITが共同で立ち上げた同様のプラットフォーム「edX」にも京都大に続く国内2校目として参画し、さらに積極的に発信していく。
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