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「拠点間の距離」が意外な武器に――ある食品メーカーの風土がガラリと変わった理由連載・企業内SNSの“理想と現実”(2/2 ページ)

» 2015年03月05日 08時00分 公開
[伊佐政隆ITmedia]
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「拠点間の距離」に悩む中国法人 しかしそれが意外な武器に?

 最後に、日本の大手食品メーカーが中国法人での社内ソーシャル導入に成功した事例を紹介しましょう。

 同社は、日本の家庭料理文化を中国全土に広めることを目指して活動しています。中国の消費者が日本式の家庭料理に触れられるよう、学校給食メニューへの提案やスーパーマーケットでの試食会を実施し、新しい市場を生み出そうと奮闘しています。

photo ※写真はイメージです

 そんな同社が課題として感じていたのは「組織づくり」でした。

 中国全土に営業拠点が広がり、物理的な距離が生じたことで、社員同士でタイムリーに情報を共有しづらくなっていました。その結果、各地で活動する社員がそれぞれ似たような課題に直面する――という非効率な状況が生まれていたそうです。

 「当社には“直行直帰”タイプの営業社員が多くいます。他の社員と顔を合わせる機会が少ないため、自分の仕事ぶりを客観的に見つめることや、周りのメンバーの成果から学ぶことが難しくなっていました。またこうした状況によって、会社としての一体感も醸成されにくくなっていました」(同社の経営企画スタッフ)

 同社はこうした課題を解決するために「ガルーン」を導入。当初は「離れた拠点のメンバーが必要な情報を得られるようにすること」を目的にしていましたが、効果はそれだけにとどまりませんでした。ガルーンの導入後しばらくして、中国で現地採用した営業社員たちが「自分の提案内容」や「その成果」を掲示板に書き込むようになったのです。

 経営層は当初この動きを見守っているだけでしたが、次第に彼らの“報告”を称賛するコメントを投稿するように。社員の「こんな陳列を提案しました」「このくらい売れました」といった報告に対し、「エクセレント!」「すごいね」といった経営層のコメントがずらりと並ぶようになりました。

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 誰にでも「人に褒められたい」と思う“承認欲求”がありますが、それは中国の社員にとっても同じだったようです。経営層をはじめとする周囲からの反応がモチベーションに直結し、その結果として営業社員同士で提案力を競い合い、成功事例が共有されるサイクルが生まれました。

 さらに同社はその後、自然発生的に生まれたこの取り組みを組織づくりに生かすために「サイボウズ大賞」と呼ぶ新たな社内表彰制度も用意しました。これは、ガルーン上でのノウハウ共有について「提案の新規性」「難易度」「タイムリーさ」「他者の模範になるか」といった基準で評価するものです。

 同社はこの制度の受賞基準を「営業社員に求めるスキル」と一致させることで、社員が表彰を目指して営業活動を行えば、自然と理想的な営業スキルが身に付く――といった仕組みづくりに成功したそうです。

ここがポイント:「導入目的」と「使ってもらう工夫」

社内ソーシャル導入の目的

  • 組織としての一体感の醸成

成功をもたらした工夫

  • グループウェア上で自然発生した「営業メンバー同士のノウハウ共有」を経営層が盛り上げ、営業スタッフの評価にもつなげたこと
  • 社内ソーシャルを活用すればするほど営業マンのスキルが向上する評価の仕組みを策定したこと

社内ソーシャル導入に「失敗する企業」と「成功する企業」、その“差”とは

 これまで多くのメディアで取り上げられてきた“社内ソーシャルの成功例”は、「あの会社だからうまくいったのだろう」「先進的なIT企業で、新しい試みが認められやすいからだろう」といった印象を持たれることも多かったのではないでしょうか。

 しかし、今回成功事例としてご紹介した4社は、インターネットが好きなスタッフが特段多かったわけでも、業務中にPCに向かう時間がとりわけ長かったわけでもありません。

 社内ソーシャル導入に成功した会社は、目的を徹底的に絞り込み、その目的と自社の企業文化に合わせたツールを選んでいました。またツールの活用面でも、情報共有の範囲を指定したり、利用をサポートをするチームを置いたり、業務に関連するコメントを投稿したくなる仕掛けを取り入れる――といった工夫を行っていました。

 こうして考えてみると「自社でも社内ソーシャルを実現できそう!」と感じていただけたのではないでしょうか。次回は、社内ソーシャルを成功させるために考えておきたい「ツール選定のポイント」についてご紹介します。

・連載「企業内SNSの“理想と現実”」の記事一覧はこちら

著者プロフィール

伊佐政隆(いさ まさたか)

サイボウズ株式会社でエンタープライズグループウェア「サイボウズ ガルーン」、業務アプリクラウド「kintone」(キントーン)のプロダクトマネージャーとして大手企業への導入提案、製品企画、プロモーションを担当。企業が直面する「情報共有の課題と価値」について常に考え、経験を重ねている。


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