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「のぞき見歓迎」――壁の向こうにあった不思議な世界太田智美がなんかやる

» 2016年06月27日 12時31分 公開
[太田智美ITmedia]

 「のぞき見歓迎」――そう書かれた壁に付けられた、たくさんののぞき穴。よく見ると、窓の隅にはフィギュアがポーズを決めている。ここはなん……だ?


ねじ

ねじ

ねじ ていねいに張り付けられたのぞき穴

ねじ 日本電気硝子製のガラス。反射防止ガラスで中がのぞきやすくなっている

ねじ キメポーズ

ねじ 何かがのぞいている……

ねじ ……

 窓に張り付けられた怪しげな青いのぞき穴をのぞいてみると、薄暗い室内が見える。中では機械が動いていた。そう、ここは埼玉県草加市にあるねじ工場「浅井製作所」。のぞき穴の中で、いったい何が行われているのか――。


ねじ

ねじ

 中に入ると油の香りで包まれる。床は油でビタビタで、部屋全体がぎとっとした空気。お気に入りの丈の長いワンピースで来なくてよかった……。機械たちは規則正しくリズムを刻んでいる。



 工場には大きく3種類の機械がある。1つは「ブランク」と呼ばれるねじのらせんがない状態までを作る機械。もう1つは油まみれのねじをきれいに洗浄する機械。3つ目は、ネジ山を作る機械。

 ブランクを作る機械では、針金(線材)から頭の成形までを作る。長い針金を機械にセットし、一定の長さで切断、それを金型に押し込んで作る。金型は一部針金が飛び出るような設計になっており、入りきらない針金部分を押しつぶしてねじの頭ができる。こうして一度つぶしたものにもう一度押しつぶし、プラスドライバの先端部分を作る。裏から押し出してブランクを取り出すまでがこの機械の仕事だ。1分間に60本、10時間稼働で1つの機械当たり4万本、その機械が10台あるためこのねじ工場では1日当たり40万本の生産能力を持つという。


現在ねじは受注生産がほとんどだという



 2つ目の機械はねじの表面を磨く機械。油(灯油)まみれになったねじを、遠心分離器できれいにする作業である。ねじを機械にまとめて投入し、がらがらと回すと、不思議とねじはさらさらのきれいな状態になるのだそう。このとき水性のものを使うとさびが出てしまうため、油で洗い流しているという。


あくまでも前処理の工程

 3つ目は、ねじ山を作る機械。左右から強く押さえつけ、らせん状のくぼみを付けていく。これは量産型ねじの一般的な作り方で、削る工程が一切ないのが特徴。ねじ山の間隔によって型を変える。金属は変形させるだけで熱を持つため、出来立てのねじを触るととても熱い。


この機械は、昭和44年のもの

筆者もねじ作りを体験(一瞬で終わった)

 浅井製作所のオーナー浅井さんに聞けば、昔はマイナスねじが主流だったという。マイナスねじは当時削って作られていたが、高度経済成長のときに「締めやすい」という理由からプラスねじが一気に普及したそうだ。


ねじ 浅井製作所のオーナー、浅井さん

 そんな歴史から、古いデザインを再現したい場合はマイナスねじが使われる場合も多いのだとか。また、水周りや電車では「ゴミが溜まりやすい」という理由からマイナスねじが使われる場合があるという。

 ちなみにこの浅井製作所、「のぞき見歓迎」としたのは小さい子でも工場内をのぞけるようにということだった。その言葉の通り、のぞき穴がかなり低い位置にも設置されていたり踏み台が置かれていたりする。

 ねじといえば一見ITとかけ離れたものにも見えるが、実はロボットやPCなど私たちのデジタル生活にとって大事なものとなっている。近くて遠いねじの世界。今日ものぞき穴の中では規則正しいリズムが刻まれている。

筆者プロフィール

プロフール画像

 小学3年生より国立音楽大学附属小学校に編入。小・中・高とピアノを専攻し、大学では音楽学と音楽教育(教員免許取得)を専攻し卒業。その後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学。人と人とのコミュニケーションで発生するイベントに対して偶然性の音楽を生成するアルゴリズム「おところりん」を生み出し修了した。

 大学院を修了後、2011年にアイティメディアに入社。営業配属を経て、2012年より@IT統括部に所属し、技術者コミュニティ支援やイベント運営・記事執筆などに携わり、2014年4月から2016年3月までねとらぼ編集部に所属。2016年4月よりITmedia ニュースに配属。プライベートでは約1年半、ロボット「Pepper」と生活を共にし、ロボットパートナーとして活動している。2016年4月21日にヒトとロボットの音楽ユニット「mirai capsule」を結成。

太田智美

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