近年、続々と登場しているダイエットサポートアプリ。これまでは、ユーザーが送信した食事の「画像」を解析し、自動でおすすめの食事メニューを紹介するものや、パーソナルトレーナーが指導するものなどが多かった印象だ。
そんなダイエットアプリだが、最近になってDNA解析を組み込んだ最新サービスが登場し、注目を集めている。ユーザーのDNA情報を解析し、その結果に基づいて摂取すべき栄養素や食事を提示するなど、よりパーソナライズされたサービスに進化しているのだ。
DNA解析と聞くと非常に高額なイメージがあるが、最近では低コスト化が進み、数年前に比べてはるかに安く解析できるようになっている。また、新しいビジネスモデルが登場し、「DNAの民主化」とも呼ばれるような動きが活発化しているのも特筆すべきことだ。
今回は、DNAベースの新しい健康サービス「embodyDNA」を紹介しながら、米国で盛り上がりつつあるDNA関連サービスについて紹介していきたい。
日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。
embodyDNAは、DNA解析を通してパーソナライズ化されたソリューションを提示することで、健康問題を改善することを目的としている。
例えば、DNA情報からユーザーの身体における栄養素に対する反応を推測し、どのような栄養素を摂取すべきかを提示できる。また、ユーザーに最適な運動レベルも把握でき、どのようなエクササイズが効果的なのかを示すことも可能だ。
このembodyDNAサービスを提供しているのは、2016年に機械学習を活用した画像解析技術を導入し、話題を呼んだダイエットアプリ「Lose It」。
Lose Itユーザーは、それまで自分の食事を手動でアプリに記録しなくてはならかったが、画像解析技術が加わったことで、写真を取るだけで食事データを記録できるようになった。Lose Itは、さらなるサービスクオリティーの向上を目指し、このほどDNA解析を基にしたembodyDNAを開始した。
embodyDNAを利用する場合、支払う費用は計189.99ドル。このうちembodyDNAのサービス利用料自体は109.99ドルのみ。残りの80ドル、これがDNAの解析費用となる。DNA解析をするのはLose Itではなく、HelixというDNA解析を専門とするスタートアップ。Helixは、米DNA解析大手イルミナからスピンオフした企業だ。
ここで気になってくるのは、HelixとLose Itはビジネス上どのような関係にあるのかだ。
実はHelixが提供しているのは、DNAデータをベースとしたApp Storeのようなマーケットプレイス。Lose Itは、そのマーケットプレイスにおいて、DNAデータを活用したアプリやサービスを提供する供給側となる。
アプリユーザーは需要側になり、必要に応じてマーケットプレイスでアプリを探し、自分のDNAデータから必要な情報を取り出せる。ユーザーがHelixのキットでDNA解析するのは一度きりで、そのDNA情報はHelixが保存する形になる。
Helixキットは、DNA全ての遺伝情報(ゲノム)を解析するのではなく、エクソームと呼ばれるゲノムの一部を解析する。遺伝情報全てを解析する場合、非常に高いコストがかかってしまうが、エクソームの場合はコストを大幅に下げられる。
コストを低く抑えられるだけでなく、送られてきたDNAキットに採取した唾液サンプルを入れてHelixに郵送するだけという簡易さも、普及を後押しする要因といえるだろう。
Lose Itのように、Helixと提携してユーザーのDNAデータを活用するサービスは、現時点で計22登録されている。
あのナショナル・ジオグラフィックもそのようなDNAサービスを提供する1つ。「Geno 2.0 Next Generation」は、20万年前までさかのぼり、自分の祖先がどこに住み、どのように移動を繰り返してきたのかを知ることができるサービス。利用料は69.95ドル。
Vinomeが提供する「Wine Explore」もユニークだ。このサービスではDNAから、ユーザーが遺伝子レベルで好む味覚を見つけ出し、その味覚に最もマッチするワインを教えてくれる。利用料は29.99ドル。
このほかにも、DNA解析によって睡眠を最適化する「SlumberType」や、母乳のDHAレベルを分析する「Breast Milk DHA+」、そして自分のDNAと家族への影響を調べられる「CarrierCheck」など、さまざまなサービスが登録されている。
さまざまな種類が登場し、注目度の高まるDNA関連サービスだが、一方でプライバシーやデータ保存の安全性に関して懸念する声もある。
Helixはデータの暗号化だけでなく、データアクセスの際に認証を求めるなど、プライバシーやセキュリティ対策に力を入れている。また、自分のDNAデータがどのように利用されるのか、新サービス向けにデータを提供するのかどうかなど、ユーザーにデータ利用に関する選択権を与えている。
技術的、コスト的な観点から見れば、市場拡大の可能性は大きいと考えられる。あとは消費者側の認知度や法整備の進展がカギとなってくるのかもしれない。
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