“テレビ離れ”は日本だけの現象ではない。米国では、2010年ごろから「コードカッター」と呼ばれる人が急増している。
これはケーブルテレビの契約を解除した(=コードを切った)人たちを指し、彼らのほとんどが「Netflix」や「Hulu」といった動画配信サービスへとエンターテインメントを楽しむ場を移している。
日本にまだ上陸していない、IT関連サービス・製品を紹介する連載。国外を拠点に活動するライター陣が、日本にいるだけでは気付かない海外のIT事情をお届けする。
調査会社の米eMarketerの予測によれば、今後米国のケーブルテレビ契約者数は年1.5〜2.5%のスピードで減り続け、その一方でコードカッターの数は2桁成長を続けるとされている。
この流れを受け、エンターテインメント企業はオンラインへの移行を加速。その過程ではコンテンツの鍵となる知的財産の獲得戦争が起きている。ディズニーはこの夏、2019年中に独自のストリーミングサービスをローンチし、同年にNetflixからディズニー作品を引き揚げると発表した。
しかし今、米国のエンターテインメント、メディア業界では「さらに先の議論」が始まっている。オンラインへの移行が完了した後、差別化の仕組みとして注目を集めているのが「インタラクティブストーリー」だ。
インタラクティブストーリーとは、視聴者がストーリーの行方を選択できるコンテンツのこと。実はこの仕組み自体はかなり昔から存在する。
子どもの頃にゲームブックと呼ばれる、自分でキャラクターの行動を選択できるような本を読んだ記憶がある人もいるのではないだろうか。インタラクティブストーリーも根本は同じで、それがデジタル化されたものを思い浮かべてもらえればいいだろう。
動画ストリーミング大手のNetflixは、視聴者層の拡大を狙って、今年6月に初のインタラクティブ作品となる「Puss in Book: Trapped in an Epic Tale and Buddy」と「Thunderstruck:The Maybe Pie」を発表。
作品では、ストーリーの進行に合わせてキャラクターが視聴者に「どうしよう……こっちを選ぶと〇〇だし、でもこっちを選ぶと●●だし……」と語りかけてくる。
例えば「Puss in Book」では、分岐点ごとに大きな本が見開きで表示されるので、iPadやiPhoneを使っている視聴者であれば、指で自分が選びたい方をタップする。
実際に視聴してみると、数分に一回のペースで選択を迫られるため、映画館で映画を見ているときのように自然とストーリーに集中できる(※現在、NetflixのインタラクティブストーリーはスマートテレビとiOSデバイスに対応しているが、Android端末やWeb版のNetflix、Chromecast、Apple TVには対応していない)
Netflixのプロダクト・イノベーション・ディレクターを務めるカーラ・エンゲルブレヒト・フィッシャー(Carla Engelbrecht Fisher)氏は、インタラクティブ作品第1弾として子ども向けの作品を発表した背景について、声明の中で以下のように語っている。
「以前から子どもは画面をタッチしたりスワイプしたりして、画面の中にいるキャラクターと『遊ぼう』としていたため、子ども向けの作品をインタラクティブ作品の第1弾として発表したのは自然な流れだった。これでようやく作品と子どものコミュニケーションが成り立つようになる」
昔から演劇の世界では、観客のいる現実世界と、舞台上にある演劇というフィクションの世界を分ける「第四の壁」(舞台両脇と舞台裏という3つの壁に続く見えない壁)という言葉が使われている。インタラクティブ作品の目的は、この第四の壁を破って視聴者のエンゲージメントを高めるところにあるのだ。
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