恐縮ながら、今回は個人的な悩みから入ります。私は以前よりいわゆる格安SIM、正確にはMVNOのとあるサービスを利用しています。仕事柄、Macをテザリングでネットワークにつなげて作業をすることが多く、毎月の通信消費量は多い月で20GBに届くので、大変便利に利用していました。
ところが、ここ半年ほどは正午からの1時間、Twitterのタイムラインでほとんどの画像が見られない、Webサイトを見てもなかなか表示されないなど、インターネットが混雑する時間帯でのストレスが我慢できなくなるレベルになってきました。
格安SIMも最近では一般的になり、3大キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)からSIMだけ変えたという方も増えてきました。安くなるし、ギガは大量だし、シンプルになるしといいことずくめのような格安SIMですが、昼の時間帯は通信制限を食らっているかのような遅さ。これに関しては多くの方が不満を持っているかもしれません。
今回はそんなMVNOに対し「設備を増強しろ!」と言いたいわけではありません。まずは格安SIMの置かれた状況を解説しましょう。
格安SIMサービス「IIJmio」を提供するインターネットイニシアティブ(IIJ)は、定期的に技術者に向けた勉強会を開催しています。そのイベントレポートはITmediaでも掲載されていて、私もよく拝読させていただいております。
2018年4月に開催された勉強会「IIJmio meeting 19」の資料に、興味深いグラフが掲載されていました。携帯電話の通信トラフィック(通信量)は、昼の12時にピークが現れ、深夜の時間帯は落ち着いています。このピークのときに、MVNOが持つ全体の通信容量を超える可能性が出てくるわけです。これが、私たちが昼に不満を募らせる原因です。
ならば設備を増強しろと言いたいのは分かりますが、MVNOにとってその1時間のピークに合わせて追加した設備は、残りの23時間において「過剰」になるわけです。当然、設備投資はそのまま利用者の料金に跳ね返ってきます。
これでは「格安」ではなくなってしまいますね。これが、簡単に設備投資ができない理由なのです。電力会社の総発電量における需給バランスに似ていますね。
MVNOが厳しい状況に置かれていることには、若干同情できるようになったかもしれません。ならば、ITの力で「ピークを下げる」ことはできないのでしょうか。例えば、ピーク時には動画や画像の画質を下げるとか……。実は、これは“禁じ手”に近いのです。
通信事業者が、通信の中身をチェックし、画像ならば圧縮し、動画ならば画質設定を変えるなどと手を加えることは、憲法第21条および電気通信事業法に反する行為だと考えられています。これらはそれぞれ、下記のような内容です。
憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
電気通信事業法
(検閲の禁止)
第三条 電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。
(秘密の保護)
第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。
通信の内容によって、通信事業者が主体となり何か操作を加えることは、上記の憲法および法律に違反する行為と考えられています。もちろん、通信を行う利用者自身が主体となり、そのような処理を行うのであれば問題ありません(例えば家庭におけるフィルタリングやブロックなどが該当します)。しかし、通信事業者はあくまで「通信を運ぶこと」が本業であり、通信の善悪を判断することはできないのです。
そのこともあり、多数のデバイスが同時に特定のサーバに通信を行い、負荷をかけてサービスを止める「DDoS攻撃」が行われていることが分かっていたとしても、通信事業者が主体となって勝手に止めることは難しいのです。
基本的には利用者にそれぞれ同意を取り付ける必要があるため、通信事業者は法の縛りがある中、シビアな処理を行っているのが現状です。
憲法と法律が指し示すことを考えれば、見た目が変わらないから問題ないともいえません。これは私たちが等しく持つ権利なのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR