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Alexaがやってることは“盗聴”なのか? スマスピを使うリスクとメリットITりてらしぃのすゝめ(2/3 ページ)

» 2019年04月23日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

 その代わりに、あなたがスマートスピーカーに話しかけた“音声”をクラウドに送信する必要があるのです。もちろん収集した音声データは暗号化されており、クラウドとあなたのスマートスピーカーとの間での通信は盗聴や改ざんはできないようになっています。

 例えばAmazonのAlexaであれば、アプリの設定画面からAlexaとの会話履歴が見られるようになっています。音声データの再生も可能で、自分がAlexaに語りかけた言葉そのものが記録されていることが分かるでしょう。

スマスピ 過去の履歴をチェックする。1年以上前の会話も再現可能であることに注目

 これはAmazonだけではありません。例えばGoogleのスマートスピーカー「Google Home」や、Androidでの音声入力などの履歴も、Googleのマイアクティビティに記録されていることが分かります。

スマスピ Googleのマイアクティビティの音声の記録。音声入力などの履歴が残っており、再生も可能

 履歴を見ると分かりますが、例えばスマートスピーカーに誰かの名前を聞き取らせたり、経路案内などの音声が残っていたとしたら、その人がこれから誰に会うのか、どこに行くのかなどの情報を類推することができるでしょう。

 スマートスピーカー本体でこれらの音声認識処理を行うことは、この価格帯では不可能です。こういった事実を理解することで、「スマートスピーカーを提供する企業に音声記録が残る」ことは不自然ではないと割り切ることはできるでしょう。

「世の中に還元する」という見方

 もう一つ、今回の事件を考えるための視点を取り上げてみます。それは音声認識などの技術が(特に日本では)今後の大きな発展が見込める分野であり、「企業側に音声データを提供することで技術向上に貢献できる」とする見方です。

 皆さんは何らかのWebサービスにログインするときに、「ロボットではありません」というチェックボックスが出てくるのを見たことがありますか。

 これは、利用者が人間かプログラム(bot)かを判断させるための「reCAPTCHA」と呼ばれる仕組みです。米Googleが提供しているもので、botがアカウントを大量に作ったり、大量のID/パスワードを用いてログインしたりするのを防ぐ狙いがあります。

 似たような仕組みとして「グニャグニャとした文字を読み取って入力する」というものもあります。これも人間と機械を判別するための仕組みで「CAPTCHA」と呼ばれます。

 しかし、GoogleはもはやこのCAPTCHAを利用していません。最近ではreCAPTCHAがよく使われており、「ロボットではない」というチェックボックスを押すと、3×3のマス目に画像がちりばめられ、「自動車を選択しろ」「信号を選択しろ」などと指示されます。

スマスピ Google、reCAPTCHAの例

 reCAPTCHAには、人間か悪質なスパムかを判別する以外の目的があります。reCAPTCHAのサイトには、「reCAPTCHA makes positive use of this human effort by channeling the time spent solving CAPTCHAs into annotating images and building machine learning datasets. This in turn helps improve maps and solve hard AI problems.」とあり、この結果が機械学習のデータセット構築に役に立っていると説明しています。

スマスピ reCAPTCHAの価値は

 そう考えると、設問の理由がよく分かります。Googleは自動運転の研究をしていること、そしてreCAPTCHAで「自動車」「標識」「信号」「建物」の画像を“人間に教えてもらう”ことで、自動運転における外界の画像認識精度を向上させているのです。これはなかなか、頭がいいですね。2018年には、ユーザーによる操作が必要がない「reCAPTCHA v3」も公開されています。

 実際のところ、上記のスマートスピーカーの音声に関して人間がチェックをし、その品質を向上させようという試みは、reCAPTCHAと似ているのかもしれません。安価に技術を利用できるのは、未来の世界を明るくするためともいえるでしょう。

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