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蛾の触角をドローンに移植 匂いの発生源に向かって飛行する「Smellicopter」Innovative Tech

» 2021年03月20日 07時18分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 ワシントン大学とメリーランド大学の米研究チームが開発した「Smellicopter」は、匂いに向かって移動して匂いの発生源を特定する、手のひらサイズの自律型ドローンだ。人工の臭気検知器を使わず、蛾の匂いセンサーである触角をドローンに移植した。

photo 蛾の触覚をドローンに取り付けている様子

 虫の触覚は、嗅覚範囲や応答速度、識別精度に優れている。例えば、オスの蛾は長距離にわたってメスを追跡し、1兆分の1以下の濃度でメスのフェロモンを検出するとされている。研究チームは、人工の臭気検知器よりも虫の匂いセンサーの方が有能だとみている。

 この優れた虫の匂いセンサーをドローンに搭載するため、タバコスズメガの触角を使用する。本体から切断するため、事前に冷やして低温麻酔を行う。切除した触角は、両端に金属ワイヤーを挿入しドローン本体の回路基板に接続する。

photo タバコスズメガの触覚を切断し回路基板に接続する
photo 実際に回路基板に取り付けた蛾の触覚

 蛾の触角は、取得した匂いの情報を脳に伝播するために活動電位を生成する。この際に生じる電圧降下を測定することで、電気的活動のモニタリングを行い匂いを検知する。1秒間に10回の測定が可能という。

 なお、触角は本体から切断されているため、最大4時間が限度としている。

 ドローンの嗅覚探索を行う上で風向きに対応することは重要とし、ドローンの背面に2枚のプラスチック製フィンをカスタマイズ。抗力により常に風上に向くよう設計されている。赤外線センサーを使用して障害物を回避しながら飛行できるようにもしている。

photo ドローンが常に風上に向くように取り付けた2枚のフィン

 花の香りを含ませた発生源を使用し、特定できるかの飛行実験を行ったところ、障害物を回避しながら香りの発生源まで追跡することに成功した。

 将来的にはガス漏れの発生源を特定する、瓦礫の下に閉じ込められた被災者の呼吸による二酸化炭素を検出する、爆発していない爆発物を発見する……などの活用を目指しているという。

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