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若手セキュリティ人材に知らせたい、「ちゃんと守れた」を伝える訴求力 「問題が起きない=評価されない」にしない考え方辻伸弘氏×GMOイエラエ阿部慎司氏ロング対談【後編】(1/2 ページ)

» 2024年08月21日 15時00分 公開
[宮田健ITmedia]

 スマートフォンとインターネットが生活に当たり前のように入り込み、さまざまなビジネスでもオンラインを無視することができなくなった。それに伴い、サイバーセキュリティの重要性は高まってきている。しかし、肝心のセキュリティ人材は不足しており、サイバーインシデントは絶えることがない。

 一方その現場には、セキュリティのために働く人々がいる。ITmedia NEWSでは、その“働くセキュリティ人”たちに注目。2021年度の総務大臣奨励賞を受賞したポッドキャスト「セキュリティのアレ」のメンバー・辻伸弘氏と一緒に、セキュリティに携わるキーパーソンたちを訪ね、その未来を語る企画をスタートする。

 第1回となる今回は、日本セキュリティオペレーション事業者協議会(ISOG-J)の「セキュリティ対応組織の教科書」やITU-T国際標準勧告「X.1060」を執筆し、GMOサイバーセキュリティ byイエラエでSOC(Security Operation Center)事業を立ち上げた阿部慎司氏を迎え、SOC人材の未来やサイバーセキュリティの理想を語り合った。その対談の様子を前後編でお届けする。

photo 阿部慎司氏(左)、辻伸弘氏(右)

 後編となる本稿では、若手セキュリティ人材に知ってほしい考え方や、それをどのように伝えるかが焦点となった。

前編:「大企業を守るには、中小を守らねば」──セキュリティの“周回差”、ニッポンらしい埋め方は

「セキュリティ人材」に必要なスキルとは?

──セキュリティ人材不足が叫ばれています。人材育成に関して感じることはありますか?

辻:僕、人を育成したことはあんまりないんですが、その思いだけは人一倍あります。世に言う「空回り」ですけれど(苦笑)

 セキュリティ人材を育成することは大事なことだと思うんですけど、“とがった人材”に話が行きがちすぎるというか。そういう人たちを育成すること自体は悪くはないんですが、お客さまが置かれた現状とのギャップを埋めにくく、セキュリティに詳しいがゆえに、セキュリティに詳しくない人たちの気持ちや、感覚を掴みにくく、理解するまでに越えないといけないハードルがいくつかあるように思うんです。

 技術は、時間とお金、そして労力をかければある程度ついてくると思うんです。それを人に伝える、あいだを取り持つということは、相手のリソースを考えつつ、100%ではなかったとしても「このくらいがいいのでは?」と言えること。いまよりもいいものに導けるスキルこそ、これから求められるものなのではないかと思います。

 仕事でしゃべることが多くなってきましたが、聞いていただいた方から「分からなかったことが分かった」とかと感想をいただくことも増えました。多分、世の中にある説明が、まだうまく伝わってないのではないか、分かっている人の視点で書かれてしまっている説明が多いんじゃないかと思います。

 人事の人から「どういう人材が必要になるんでしょうか」と聞かれることも多いんですが、技術よりも「ロジカルシンキングができて、会話がちゃんとできて、文章が書ける人」と答えます。こういうのがスキルとして認められないと、ギャップが広がってしまうのではないでしょうか。

阿部:実際に必要なスキルというと、政治力含む社内での立ち振る舞い方とかもですよね。結局、事件は会社のなかで起きているんです。その会社の中で、どう解決するための動きができるかというところがフォーカスされるはずなので、単に技術を持っていても、誰も動かなかったら何も解決しません。

 アウトソース/インソース議論もその一環だと思っていて、セキュリティのことにも下地があるけども、社内のこともよく分かっている必要がある。私がISOG-J(日本セキュリティオペレーション事業者協議会)で書いた「セキュリティ対応組織の教科書 第3.1版」も、アウトソースとインソースの区分って会社の中の情報を使うか、外の情報を使うか、そこにセキュリティのスキルを使うかによってマッピングをしています。

参考:活動成果|ISOG-J:セキュリティ対応組織の教科書 第3.1版

辻:自分が守るべきものがお客さまであったり、自分の組織であったりといろいろ形がありますが、求められるのは「訴求力」なのではないかと思います。自分たちが入れたいと思う製品やサービスを、上層部にどれだけ訴求できて、説得できるかっていうところ。

 僕もそうでしたけど、若いときは「自分が持つ技術力はすごい」と自己評価が高くなりがちですよね。それを上は何も分かってないみたいなことを言っちゃうのはやっぱりよろしくない。自分の持っている素晴らしいもの、素晴らしさのその価値を説くことができないと、多分お給料も上がらないし、自分たちの成果を見せにくいっていうか。

 セキュリティとは、ちゃんとやっていて守れたのか、それとも攻撃が来なかっただけなのか、パッと見では分かりません。それをアピールする“力”みたいなものがないと、認めてもらえないのではないかと思います。

阿部:「守る」ということが、誰の目線で、どう考えているかで結構変わってしまいます。技術者が上と話が合わないみたいなのは、それぞれ守りたいと思うことが違うから起きていることで、これをしっかり定義できている会社は話が通りやすい。

 要するに、経営者の目線ではKPIや使うべき技術など、ロードマップが整っていることが必要で、経営課題にひも付けばつながっていく。そこが本来そろっている考える必要がある。ぼんやりと「ランサムウェアが怖いから守らねば」ではなく、経営者として資産や知財、レピュテーションリスクを考え、それを守るためにランサムウェア対策を考え、現場はバックアップなどの仕組みを実現する。セキュリティに限った話ではないと思います。

辻:「組織人」になれるかというような、普遍的な部分かもしれませんね。

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