報酬体系の改悪により、モチベーションが低下傾向にあると言われるフードデリバリー(フーデリ)配達員。例外的なのは、フーデリ配達に専業的に従事する外国人で、日本人配達員の減少を好機とばかりに報酬単価の減額もいとわず、薄利多売に勤しんでいるという。
しかもここ数年、フーデリ業界では、外国人の配達員登録について厳格化の動きが顕著で、多くのプラットフォーマーでは、不法滞在者は無論のこと、留学生でも配達員としてのアカウントを新規取得ができない。
そんな中、配達員登録をしていない外国人に、取得済みのアカウントをスマートフォンごと貸与するビジネスも存在する。貸与を受けた配達員は、その日に稼いだ総額から4割程度の手数料が天引きされた金額を現金で受け取るという(対策としてスマホカメラを使った配達員の顔認証を行うプラットフォームもある)。しかし、報酬単価も低下するなか、それではいくらにもならないのではないか。
ただ彼らには、薄利多売でもモチベーションを維持できるだけの秘密兵器があるという。配達員として働く日本人男性、A氏が話す。
「新宿から池袋に向かう長い坂道では、車より速いスピードで自転車で登っていく外国人配達員をよく目にします。しかもよく見ると、まったくペダルをこいでいないんです。彼らの多くは、違法電チャリ(電動自転車)を駆使して、配達件数をこなしている」
事実、Facebook上に存在する関東在住のベトナム人フーデリ配達員のコミュニティーでは、中古の違法電動自転車の取引が盛んに行われている。中には「スタートから12秒で時速60km」だという原付バイク並みの加速力をうたうマシンも出品されている。
自転車に後付けすることで電動化することができるというモーターも中古で5000円程度で販売されている。取り付け作業の代行を有償で行う業者の書き込みさえある。
こうした違法電チャリを使う爆走配達員にとって、さらに追い風となっているのが、近年各プラットフォーマーが積極的に運用している配達方式だという。
外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人(エイリアンズ)なのだ。
奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ 新型コロナ詐欺」(扶桑社)など。
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