スマートフォンの不適切使用問題に競馬界が揺れている。この10年間、同様の違反行為で処分が相次ぐ中、日本中央競馬会(JRA)で女性最多勝利を挙げた藤田菜七子騎手(27)に10月10日、騎乗停止処分が下り、引退届を提出したことが発覚した。違反行為の舞台となったのは騎乗前に騎手が滞在する「調整ルーム」。不正防止のために設置されているが、日本独自で欧米にはないシステムだ。処分が直接的な理由か定かではないが、競馬界のヒロインが第一線を退く決意をしたことにファンの間では動揺が広がっている。
調整ルームは競馬場とトレセンに併設された食堂や風呂などがある施設。騎手は騎乗前日の午後9時までに入ることが義務付けられている。レース前に部外者と情報をやりとりするなどの接触を断ち、八百長を防止して公正を確保することが目的だ。室内ではスマホやタブレット端末など通信機器は原則使用できない。
2011年以降、通信機器は施設内のロッカーに預けることになっている。JRAによると、違反行為が相次いだことを受け、昨年5月から態勢を強化した。
施設入り口に設けられたロッカーにスマホなどを入れる際には職員が立ち会い、何も預けない場合は「本当にないのか」と確認。職員不在の場合も防犯カメラで誰が何を預けたか確認する態勢になっているという。
だが、過去の違反事例ではスマホを2台持ち込み1台だけ預けたり、ケースだけ預けたりする「悪質なケース」もあった。関係者は「空港で行われるようにボディーチェックしたり、荷物を開封して確認したりすることまでやるのは難しい」と話す。
そもそもこうしたシステムは欧米にはないという。調整ルーム自体がない。「紳士協定と人権意識」と強調するのは海外競馬解説者の合田直弘さんだ。
合田さんは英米の事例を元に「そもそも(八百長に関与する)裏社会とはつながりを持たないという認識が共有されているし、そのルールを守りましょうというのが1つ。通信機器を制限して、極端な事例だが生まれたばかりの子供の映像が見られない、家族の安否を知ることができないとなれば人権問題になるから」と話す。
ただ、英国でも「八百長防止」は導入されている。調教師は馬券を買えるが、ベッドエクスチェンジと呼ばれる負ける馬に賭けるのは禁止。負けることは意図的にできるためとされる。
騎手も同様だ。レース前に体重を図ったりする検量ルームではスマホなど通信機器でのやりとりはできない。他の騎手の情報を漏らせば「インサイダー」となるためだが、近くに通信スペースは設けられている。複数レースが同時開催され、調教師と直接話せない場合もあることを踏まえた処置だという。
英米と違い日本はレースを主催する側と馬券を扱うブックメーカーが同一のため、より厳格な対応を求められ、調整ルームのルールを適用する側面はある。合田さんは「日本での競馬はギャンブルの側面があり厳しいルールが課されてきたから警戒は分かるが、騎手はルールは守るべきだ。そぐわないならば、結論ありきではなく、きちんと議論すべきだろう」としている。(五十嵐一)
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