──note内ではいわゆる“スタートアップ界隈”を指して「いやしくてつまらない『界隈意識』と、くだらない『同調圧力』を楽しんでいる」と批判していました。一方で、それを受けた起業家とのやりとりや、その他VC関係者の反応などは、これぞまさしく内輪な“スタートアップムラ”だったのでは、と思うところでもあります。山田様が意図したような“界隈”を発奮する効果は得られたのでしょうか
山田CEO:メジャーリーガーでも、野茂がいて、松井秀喜がいて、イチローがいて、そして世界のトッププレイヤー・大谷翔平が出てきたように、パイオニアがいて、そこからすごい人が続きました。同じように「こいつにもできた(から、自分にもできるだろう)」という見せ方はできたんじゃないかなと思います。他の起業家とあまりつながっていないので、SNS上での反応を見ただけ(の感想)ではあるのですが。
あとは、グローバルでは「非参加型」(非参加型優先株式:優先株式を有する株主が配当を受けた後、残余の分配額から配当を受けることができない形式。一般に起業家に有利とされる)が主流ですが、日本ではほぼそうではない「参加型」が主流で、投資家が優位になっています。
しかし、SNSでは(noteでの発信以降)、VCの人と思しきアカウントから「変えた方がいいんじゃないか」というコメントしている人もいたので、そういう意味でも一定の効果はあったかと思います。
──ちなみに社内含む関係者は、今回の発信をどの程度認知していたのでしょうか。投資家などに事前に説明はあったのでしょうか。10月16日には、日本から投資しているVC3社の一つ、Coral Capitalからはブログでの言及もありましたが
山田CEO:僕とPRチームは全部把握しており、既存の投資家3社には「あなたがたを非難しているわけじゃないけど、こういう声明を出すよ」とは共有していました。
──発信後、投資家からの反応はいかがでしたか
山田CEO:もともと似たようなことを言っているのは知られていたので、「頑張ろうね」と(笑)
──PR担当の根岸さんに質問です。今回のような発信をしたい、と山田さんが言い出したときの率直な感想を教えてください
根岸さん(以下敬称略):影響力のありそうな記事になりそうだったので、ネガティブなコメントは絶対にあると思っていました。そのネガティブなコメントを全体の何%に抑えるかが広報の役目と思ったので、そこは私もやり切ろうと考えました。
──具体的に何%に抑えようと、どんな工夫が行われたのでしょうか
根岸:実は記事自体も短期間にできたものではなく、書いていく中で最終的に何度かアップデートして今の形になっています。軸は全く変わっていませんが、言い回しや“言葉の強さ”を変えました。
ネガティブなコメントは、7〜8%以下に抑えられればと考えていました。15%までいくと(批判的なコメントに)乗じてネガティブなコメントが増えてしまいますが、逆に少なければそうはなりません。全体感として「良いコメントが多いが、中には強い(批判の)コメントがある」というバランスになるよう見ていました。
──記事が出た後の感想は
根岸:前のめりに働いている方が情報のインプットに充てているであろう午前7時台に公開したのですが、(記事を)出してから30分くらいはずっと張り付いていました。こういう発信は初速が大事なので、緊張しました。
──いち記者の視点ではありますが、今回のダイニーの発信は、同様のPR施策の中でも成功例に属すると感じました。まねをしたいスタートアップは多いと思うのですが、振り返っての気付きや後続へのアドバイスはありますか
根岸:ダイニーはこれまで発信やメディア露出を全くできておらず、むしろ状況としては「この機会を逃すと、目立てるチャンスがない」という状況でした。私も広報3年目でペーペーなので、他社の発信を見て勉強しているんですが、それをベースに欲張ったのが今回のプラン……という感じです。
山田CEO:前提として自分たちのことはまだまだだと思っていますし、こんなレベル感のヤツが何を言っているんだとも思っています。その上で僕の目線から一つ言うとすれば、発信の全体的なデザイン・グランドデザインをできる人材や広報チームを固定することが奏功したのかと思います。あのnoteも単体で考えていたわけではなく、(数カ月程度の)流れで発信した一連のコンテンツのうちの一つだったので。
──山田さんはSNS(X)の発信も積極に行っていましたね
山田CEO:7月くらいから毎日SNSでの発信を始め、その後会社全体のリブランディングや、新しいプロダクトのリリースや資金調達の発表、note記事がありました。うまくいった理由はそこ(全体的なデザイン)なんじゃないかと思っています。
インタビューからは、単に過激なだけでないPR戦略と、山田CEOが“界隈”に発破をかけた背景が垣間見えた。とはいえ、ダイニーが投じた一石は大きい。果たして同社が“あざとさ”に見合う魅力を身に付けられるか──今後が見物だ。
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