主菜が鶏の唐揚げ1個だけの小学校の給食写真がSNS上で批判を浴びた福岡市が、2学期からの市立小などでの給食費無償化を控え、メニュー改革に乗り出す。外部有識者を交えた検討会を立ち上げ、見栄えや地元産食材の活用などの改善策を探る方針だ。食材費高騰や栄養バランスの取れた献立作成などは、同市だけでなく全国の給食の現場が直面する課題。専門家からは給食の役割は多岐に渡るとして、十分な予算確保を求める声が上がる。
福岡市は市学校給食公社のホームページで毎日の献立を写真付きで公表している。話題となった給食は4月中旬に小学校で提供されたもので、画像がSNSで拡散され、「寂しい」「貧しい」などと“炎上”した。
市教育委員会によると、提供された唐揚げは1個約60gと通常のサイズの2倍あり、拡散された画像は配食後に残った小さめの唐揚げを記録用に撮影したものだったという。その日は唐揚げの他に野菜を多く使った汁物もあり、担当者は「カロリーと栄養バランスの基準は満たしていた。画像掲載は保護者に献立を分かりやすく伝えることが目的で、拡散されることは想定していなかった」と困惑気味に語る。
3月にも主菜が唐揚げ1個の給食があったが、副菜に野菜炒めがあるためバランスが取れているようにみえる。「4月は比較的食欲が落ちる傾向にあるため、組み合わせを汁物とする配慮があった」(担当者)というのが”真相”のようだ。
市内の小学校の給食の献立には、郷土料理や特産イチゴ「あまおう」、タイ料理の「ガパオライス」など地元・国際色豊かなメニューもある。
実際、保護者ら当事者の声はさまざまだ。批判的な声が出る一方で、小学6年の子供を持つ母親(48)は「給食が批判されていることに子供は『作ってくれている人がかわいそう』と怒っている。不満を聞いたことはなく、バラエティー豊かな食事を提供している」と評価。小学2年の男児の母親(45)も「食べ盛りなので唐揚げ1個は寂しいと感じたが、量が少ないと聞いたことはない」と話す。
市教委は今回の件を受け、7月にも食育の専門家を交えた検討会で改善に向けた議論を始める。高島宗一郎市長は給食をより良いものへ進化させるチャンスと位置づけ、「(短いと指摘される)給食の時間や、和食に牛乳という組み合わせ、物価高を含め、既成概念にとらわれず幅広く検討してほしい」と期待する。
公立学校の給食は、各自治体が限られた予算で提供している。物価高騰に加え、子供の貧困が課題になる中、公費負担が増加。福岡市の物価高騰分の公費負担は、2022年度の4億円から25年度は3倍の12億円に上る。
従来以上に予算や質の確保が求められるようになっているうえ、現場の調理員には食中毒や異物混入などの衛生管理、アレルギー対応への細心の注意も必要とされる。
ただ、調理員がさまざまな工夫しても、子供たちは好きなものだけを食べ、嫌いなものを残すという現実もある。小学校教諭の男性(39)は「調理員は暑い調理室で何百人分もの給食を準備してくれている。それでも、児童に減らすかと聞くと、メニューによっては大半が減らすと答える日もある」と明かす。
こうした課題に対し、調理員が主体となって解決を目指す動きがある。
兵庫県宝塚市では調理員の有志が劇団を結成し、食育劇を通じて子供の食の問題の改善に取り組んでいる。「劇団からっぽ大作戦」と題して12年にスタートし、給食ができる過程や野菜の重要性などをテーマに小中学校で創作劇を披露。調理員が給食の先生として慕われ、子供の食べる意欲が増すといった効果が出ている。レシピ動画も配信しており、市立中山五月台中学校の調理員、小倉秀治さん(56)は「給食の結果は未来に出る。食に関わる大人は食べることの大切さを伝えないといけない。一方通行にならないよう子供の声を聞くことも大切」と語る。
給食には栄養の摂取以外にも多くの役割があると専門家は指摘する。
「給食の歴史」の著書がある京都大学人文科学研究所の藤原辰史教授(歴史学)は「給食のおいしさは子供の学校生活を豊かにし、学校に来るモチベーションを上げる」と話す。
学校給食は明治時代に貧困の子供を救い、学校に通う動機づけをしたことが原点という。藤原教授は「地元の食材を使うことは食料自給率の向上につながり、地域への思いも高まる。教育的効果は大きく、子供は給食を通じて多くを学ぶ。省庁をまたいで給食事業に関わり、十分な予算を付けるべきだ」と強調する。
学校で栄養教諭の勤務経験があり、給食行政に詳しい名古屋学芸大の高田尚美教授(食教育学)は「給食提供には設備費や人件費、水道光熱費などの費用もかかる。給食無償化が独り歩きし、保護者や地域がどんな給食を提供したいかや、そのためにかかる費用が共有されていない」と指摘。「給食は食について学ぶ教材で、おいしさにつながる見た目に手を加えることも大切。持続可能な給食を提供するため、大人も子供も理解を深める必要がある」と話す。(一居真由子)
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