ちょっと昔のInnovative Tech
「メンソール」をおでこに塗ると頭痛に効く? 35人を対象に実験 2010年の研究結果
ちょっと昔のInnovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。通常は新規性の高い科学論文を解説しているが、ここでは番外編として“ちょっと昔”に発表された個性的な科学論文を取り上げる。
X: @shiropen2
イランのShiraz University of Medical Sciencesなどに所属する研究者らが2010年に発表した論文「Cutaneous application of menthol 10% solution as an abortive treatment of migraine without aura: a randomised, double-blind, placebo-controlled, crossed-over study」は、ペパーミントの主要成分であるメンソール(メントール)が片頭痛に効くかを調査した研究報告だ。
実験では、35人の片頭痛患者(女性80%、平均年齢29.6歳)が参加し、合計118回の片頭痛発作が解析対象となった。
内容は10%メンソールのエタノール溶液を実薬として、0.5%メンソールのエタノール溶液をプラセボとして使用した。0.5%という低濃度でも匂いは10%溶液と区別がつかないため、患者も医師も薬剤師以外はどちらを使用しているか分からない完全な盲検化が実現された。
使用方法は片頭痛発作が起きたら、まず痛みのある側(両側性の場合はより痛い側)の前額部(おでこ)と側頭部(こめかみ)を水道水で洗浄し、乾燥させてから、1mlの溶液をスポンジに含ませ塗布する。患者は暗く静かな場所で安静にし、30分後に同じ手順で再度塗布。血管圧迫による影響を避けるため、側頭部を押さえないよう指示した。
結果、2時間後に痛みが完全に消失したのは、メンソール群で60回中23回(38.3%)、プラセボ群で58回中7回(12.1%)となり、統計学的に有意な差が認められた。つまり、メンソールはプラセボの3倍以上の確率で片頭痛を完全に消失させた。メンソール群では塗布後15分から痛みの軽減が始まり、2時間後にかけて継続的に改善した。
痛みが半分以下になった割合も顕著な差を示し、メンソール群で60回中35回(58.3%)、プラセボ群で58回中10回(17.2%)という結果に。さらに、24時間後も痛みが再発しない割合では、メンソール群33.3%対プラセボ群12.1%と、長期的な効果も確認できた。
さらに、片頭痛に伴う悪心・嘔吐、光過敏・音過敏などの随伴症状の軽減においてもメンソールの有効性が確認された。
安全性の面では次のような結果が得られた。メンソール群の85%、プラセボ群の93.1%で48時間以内に特筆すべき副作用は報告されなかった。メントール塗布後の有害事象として側頭部の灼熱感が8.3%、流涙が5%、メンソールの匂いによる頭痛の悪化が1.6%に認められたが、いずれも軽微なものであった。重度の灼熱感と頭痛の悪化により試験を中止した患者は全体の5.7%にとどまった。
メンソールが片頭痛の痛みを和らげる仕組みは、主に3つの経路で挙げられている。まず、皮膚に塗られたメンソールは冷感受容体(TRPM8)を刺激し、痛みの信号が脳に伝わるのをブロックする。これは冷やすと痛みが和らぐのと同じ原理だ。
次に、メントールは頭部の筋肉の緊張を緩める。片頭痛では筋肉の過緊張が痛みを悪化させるが、メントールはカルシウムの働きを抑えて筋肉をリラックスさせる。さらに、片頭痛で起きる血管周囲の炎症を、メントールが炎症物質の産生を抑えることで鎮める。この3つの作用が同時に働くことで、メントールは片頭痛に対して効果を発揮すると考えられる。
Source and Image Credits: Borhani Haghighi A, Motazedian S, Rezaii R, Mohammadi F, Salarian L, Pourmokhtari M, Khodaei S, Vossoughi M, Miri R. Cutaneous application of menthol 10% solution as an abortive treatment of migraine without aura: a randomised, double-blind, placebo-controlled, crossed-over study. Int J Clin Pract. 2010 Mar;64(4):451-6. doi: 10.1111/j.1742-1241.2009.02215.x. PMID: 20456191.
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Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
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