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「警視庁捜査2課です。あなたに逮捕容疑がかかっています」2課担当だった記者に詐欺電話

» 2025年08月04日 18時27分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 携帯電話や固定電話にかかってくる「詐欺電話」のうち、警察官を名乗って相手をだます手口が急増しているが、記者の携帯電話にも、それらしき電話がかかってきた。通話の最中、記者もところどころ相手の言い分を信じてしまいそうになる場面があるなど、手口はとても巧妙だった。少しでも詐欺被害が減ることを願い、電話の内容を記すことで、犯罪手口や実態の周知を微力ながら後押ししたい。(外崎晃彦)

photo 記者の携帯電話にかかってきた詐欺電話の履歴。電話番号の末尾が「0110」なのは、警察署を装ったとみられる(画像の一部を処理しています)

 「こちらは警視庁捜査2課ですが、こちらソトザキ…ソトザキアキヒコさんの携帯電話でお間違いないでしょうか」

 こんな内容で始まる電話が8月2日、記者の私用の携帯電話にかかってきた。勤務のない土曜の午後3時すぎのことだ。

 記者の苗字は「トザキ」と読むが、知らない相手からはたいてい「ソトザキ」「トノサキ」などと読まれる。記者はすぐに「あっ、詐欺電話かも」と直感したが、なにも言わず、話を聞いてみることにした。というのも、記者はつい最近まで警視庁、それも捜査2課の担当をしており、この電話が自分の書いた記事のミスを指摘する内容の可能性もあったためだ。背筋が冷やりとする思いもしながら、話の続きを聞くことにした。

 電話の主は50〜60代くらいの男とみられ、慣れた口調で説明を始めた。「こちらは警視庁の捜査2課です。ある事件を捜査している中で、あなたのクレジットカードが使われた記録が浮上し、あなたに容疑がかかっている」「これから説明しますが、いまそちらは周りに誰もいませんか?」。捜査2課の取材時に知った詐欺の典型的な手口を思い出し、「記事のミス」への懸念は消えた。

 そうであれば、詐欺の手口をできるだけ聞き出してみたい。相手に合わせて「(周りに)誰もいない」と答えた。その後も「はい…はい…」と相槌を打ちながら聞く記者に、相手は説明を重ねてくる。

 「このままでは逮捕されることになるので、事情を説明しに山梨県警に行ってもらうことになります」。

 唐突に「山梨県警」という単語が出てきたことで、「どういうことですか?」と聞き返さずにいられなくなった。記者は山梨県警の記者クラブにも在籍していたことがあるため、「あれ? 詐欺ではなく本当に自分に関わりのある話か」と思ったのだった。

 「ですから本件は、警視庁から山梨県警に捜査指示が出ている話なんです」。警察庁ならともかく、警視庁から山梨県警に指示とは考えづらい。やはり詐欺だと思ったが、相手はなおも、こちらの返答を待たずに説明を重ねてきた。

知られていた現住所

 「念のための確認ですが、外崎さんのご住所は神奈川県川崎市××区×××××ですね」

 再び背筋の凍る思いがした。合っているのだ。住宅の部屋番号までしっかり。どこで個人情報が流出したのだろうか。疑念と同時に恐怖感を覚えた。

 相手は、追い打ちをかけるように「昨年11月に楽天カードの口座を開設されていると思いますが」と尋ねてきた。昨年11月に開設した記憶はないが、楽天カードは持っていて、自分が普段一番よく使用するクレジットカードだ。もしカード番号まで知られているとなると、不正使用されるかもしれないという不安もよぎる。

 そこで、こちらからカード番号を尋ねてみた。返ってきた答えは「個人情報にかかわるのでそれはお伝えできません」。おそらく知らないのだろう、と少し安心する。

 それにしても、こちらが尋ねてもいない住所を一方的に伝えておきながら「個人情報」とは、よく言えたものだ。私が楽天カードを所持していると「言い当てた」のも、世の中でよく使われているカードを当てずっぽうで言ったにすぎないのかもしれない。

 この辺で電話を切ろうと思ったが、相手の実態を探ろうと思いなおし、いくつか質問をぶつけてみることにした。

 まずは名前。「失礼ですがお名前は」と問うと、相手は「ヤマモトケンジです」と回答した。漢字を聞くと「健康のケンにオサムと書く」と説明した。山梨県警の所在地をたずねると「甲府市丸の内1の××××」と、記者がうっすら記憶している県警本部の住所を、よどみなく答えた。ある程度の問答を想定しているようだ。

 ただ、「捜査2課はいろいろと係が分かれていると思うが、山本さんはどちらにご在籍か」との問いには、「いやいや捜査2課です」「捜査2課は捜査2課です」などと、あいまいな回答を繰り返した。

下4ケタが「0110」

 「もしかしてタイかフィリピンからおかけですか?」との質問には、「こちらからは場所が通知されない特殊な通話方法であり…」などと、質問とは違う回答をした。

 こうした「逆質問」を重ねるうち、相手にも、こちらが詐欺だと気づいているという雰囲気が伝わってしまったため、会話が続かなくなり、通話を終えることとなった。

 最後に「では今度、山梨県警に行ってきますね」と言って電話を切ったが、それ以降、先方からかけなおしてくることはなかった。山梨県警に記者を行かせる話から、どう詐欺に結び付けるのかまでの手口を聞いてみたかったが、かなわなかった。

 通話後に着信番号を見返すと「+999×××0110」という、登録していない見知らぬ番号だった。下4ケタが「0110」なのは、警察署からの着信を装っているようだ。着信時、記者は反射的に通話ボタンを押していたので気づかなかったが、人によっては着信番号を見て「警察署からだ」と思って出てしまう人もいるかもしれない。相手が記者の住所を知っていた理由は今も分からないままだ。

 今回のような「警察官を名乗る詐欺」は横行している。警察庁が発表した今年上半期(1〜6月)の特殊詐欺被害額(暫定値)は、同期比で過去最悪の約597億3000万円に上り、そのうち、警察官をかたる捜査名目の詐欺が389億3000万円で、特殊詐欺全体の65%を占めたという。

「だまされてしまうかも」

 通話を振り返ると、相手の落ち着いた口ぶりや態度、警察関連の用語の使い方などはいかにも警察官といった雰囲気を醸し出していた。また、こちらを容疑者と見なす圧迫感は刑事ドラマなどで見かける警察官さながら。詐欺電話に関する予備知識がある程度あった記者でも、「これはだまされてしまうかもしれない」と感じるほどだった。

 捜査当局は「警察官が電話で捜査対象になっていることを伝えることはない」と周知を図り、詐欺被害の防止に努めている。見知らぬ番号からの電話で「警察」「逮捕」など単語が出たら、まずは疑ってかかったほうがいいかもしれない。

 また、今回のやりとりで感じたことは、相手も警察官を装っている以上、ある程度丁寧に答える「素振り」をせざるをえないということだ。もし電話に出てしまい、相手が「警察官」だと名乗ったとしても、不安にかられることなく、冷静に対応することが、被害を防ぐ一つのコツなのではないかと感じた。

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