「古墳系YouTuber」。古墳や遺跡を巡り歩いてSNSなどで発信する動画が増えている。多くは節度をもって古代の魅力を伝えているが、一部には立ち入り禁止の古墳に入るケースが見られ、住宅地にある古墳では家の中がのぞかれないかとの不安も。さらに生成AIの進展で動画加工も容易になり、事実と異なる遺跡の姿が発信されれば歴史をゆがめかねないとの研究者の指摘もあり、発信者側のモラルが求められそうだ。
「YouTuberが柵を越えて古墳の中に入って撮影している。古墳の周囲には家がたくさんあり、防犯上も不安」
11月初め、奈良県上牧(かんまき)町の国史跡・上牧久渡(くど)古墳群の整備工事に関する住民説明会で、地元から声が上がった。古墳群から民家まで数mしか離れていないためだ。古墳群はロープやフェンスで囲まれているが、工事現場や古墳群内の様子がYouTubeでアップされていた。
町はさっそく立ち入り禁止の表示板を増やすなどして対応。担当者は「古墳群に入ってのYouTube発信は予想もしなかった。工事の安全とともに、少しでも住民の不安を解消したい」と話す。
SNSを通じて誰もが情報発信できる時代にあって、文化財の公開性と住民のプライバシー保護の両立も課題となっている。
大阪の都市部に広がる世界文化遺産「百舌鳥(もず)・古市古墳群」(大阪府堺市、羽曳野市、藤井寺市)は特に古墳が住宅地の中に点在している。国内最大の仁徳天皇陵古墳(堺市、墳丘長486m)近くにある長塚古墳(同106m)は周囲に住宅が立ち並び、数年前に開かれた見学会では事前に住民の意見を聞いた上で、民家の中が見えないよう目隠し用のネットを設けた。同市世界遺産課担当者は「世界遺産の魅力を間近で感じてもらいたい一方で、住民生活に影響を及ぼさないことが大切」と話す。
飛鳥時代の天皇クラスの古墳や宮殿跡が集中し、「飛鳥・藤原の宮都」として来年の世界文化遺産を目指す奈良県明日香村では、水田や山裾など、いたるところに遺跡があり、国内外からの歴史ファンは多い。立ち入り禁止区域に入ったり遺跡を傷めたりするケースは少ないようだが、SNSと生成AIをめぐる新たな懸念も指摘される。
スマートフォンをかざすと遺跡の3次元測量ができる時代。巨大石室で有名な同村の石舞台古墳などでは、インターネット上で石室内の測量画像が掲載されているが、村が提供したデータではないという。同村教育委員会の西光慎治・文化財課長補佐は「文化財には真実性の担保が求められるだけに、どの機関が調査したかなどを明らかにする必要がある」とした上で、「もし生成AIなどによって動画が加工されれば、実際の遺跡や遺物の姿とは異なる情報が発信され、それが『真実』になってしまいかねない」と危惧する。
個人が撮影した動画が瞬時に発信できる時代。安易に動画が改変されれば歴史がゆがめられかねず、対応策など議論が必要な時期に来ている。
「一般の人によるYouTubeの発信は、遺跡の魅力を伝える上で大切な一方で、撮影時に田畑に入ったり遺跡を傷めたりしないよう注意が必要。インターネットでの検索が広がる中、遺跡について調べる場合、Webページの最初に表示される内容を信用してしまう傾向も懸念され、根拠となるデータが確かなものか見定める必要がある」
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