2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
シンガポールの南洋理工大学と早稲田大学の共同研究チームがNature Communicationsで発表した論文「Underwater Suit-Wearing Cyborg Insect Capable of Hours-Long Diving and Terra-Aqua Travel」は、陸生昆虫である「マダガスカルゴキブリ」に装着できる小型のダイビングスーツを開発し、数時間にわたる潜水と水陸両用の移動が可能な“サイボーグ昆虫”を実現した研究報告だ。
生きた昆虫の体と電子部品を組み合わせたサイボーグ昆虫は、虫自身の筋肉を動力とするため電池の消費が少なく、人が入れない瓦礫の隙間などでの捜索救助や配管点検への応用が期待されている。
しかし、これまでのサイボーグ昆虫は陸上でしか活動できず、実際の災害現場などに存在する水たまりや冠水エリアには進入できないという弱点があった。
この課題を解決するため、研究チームは電気を使わずに自ら酸素を供給できる特殊なダイビングスーツを考案した。
スーツは、虫の腹部をすっぽり覆う柔らかい防水シェル(内部が酸素を溜めて運ぶタンクの役割も果たす)、過酸化水素水と二酸化マンガンの化学反応を利用して酸素を持続的に生み出す小型装置(酸素発生装置)、昆虫が呼吸をする胸部の穴(気門)へ酸素を直接送り込むチューブで構成されている。
電気不要で酸素を発生させることや、気体だけを通し水を通さない特殊なフィルターを使うことで、水や化学物質の漏れを防ぎつつ、水中での持続的な呼吸を可能にした。
実験では、このスーツを着たサイボーグゴキブリは、水没した状態でも最大3時間にわたって正常に呼吸し、歩き回ることに成功した。外部からの電気信号による直進や旋回といったゴキブリの行動に対するコントロール操作にも反応した。
さらに過酷な現場を想定し、息ができない二酸化炭素が充満した区画と水没した区画が連続するトンネルの通過テストも行われた。通常の個体がすぐに動けなくなる環境でも、スーツを着た個体は酸素供給を受けられるため、無事に通り抜けることができた。
また、操作用の部品などをゴキブリの体内に埋め込んで背中の出っ張りをなくすことで、水中の高さわずか2cmしかない極めて狭い隙間を潜り抜けることにも成功している。
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