単に速いだけでない、「WiMAX 2」に期待すること(2/2 ページ)
UQが新世代規格「WiMAX 2」の公開フィールドテストを実施。ここで分かった効果ととともに、ワールドワイド事情も含めたWiMAX 2のエコシステムとトラフィックオフロードの目的を本田雅一氏が解説する。
WiMAX 2のエコシステムはどうか──「トラフィックオフロード」もキーワード
もう1つ、WiMAX 2に関して気になっている部分があった。それはエコシステム、すなわちWiMAX 2を巡る経済的な循環がWiMAXよりも弱いのではないか、という懸念だ。
WiMAXの場合は、UQコミュニケーションズの事業パートナーでもあるインテルがWiMAXに対応する通信モジュールを提供し、主にPCに対して強力に普及を推進させた。WiMAX利用者はPCでもスマートフォンやタブレットデバイスなどでも利用できるポータブル無線LANルータ型のユーザーが中心になってきているが、“多くのモバイルノートPCに内蔵されている”ことが普及のドライバだったことは間違いない。
ところがインテルは、WiMAXへの支援は今後も約束しているものの、WiMAX 2に関しては2011年7月現在、対応の方針こそ示すが具体的な態度は明確にしていない。同社は2008年に独Infineon Technologiesから携帯電話向けLSI事業を買い取り、LTE技術を自社のPCプラットフォームへと取り込んでいくことを発表している。
WiMAXありきでPCのWAN対応を進めてきたかつてのインテルと今のインテルは、WiMAXに対する取り組み方が違う。もし、インテルが以前よりもWiMAXに対して積極的でないならば、WiMAX 2をドライブする大きなエコシステムの構築がうまく行かないのでは? という懸念を持っている読者もいるだろう。
また、WiMAXと3Gを組み合わせたサービスが欧米で行われていることもあり、現在はWiMAX搭載のスマートフォンも市場に投入されている。これがWiMAX 2の時代となったとき、欧米でWiMAX 2への投資がどこまで勧められるかは不透明だ。もし海外でのWiMAX 2展開が遅いようだと、WiMAX 2対応スマートフォンを含むスマートデバイスが出てこない可能性はある。
ワールドワイドでの4Gに関してはLTEの勝ちで、WiMAXは脇役になったという意見が出てくるのはこうした背景事情からだ。これでは”WiMAX”が日本でのみ突出して普及・エリア整備が進み、海外とは異なる、いわゆるガラパゴス的な環境を作り出してしまう原因になるとも考えられている。
しかし、実はそうではないのでは? というのがわたしの意見……というよりも感触だ。インテルがLTEのためにInfineonの部門を買収したのは、マルチ・コミュニケーション戦略を採るためだ。特定の通信規格だけに依存するのではなく、特徴が異なる複数の通信技術を取り込むことで、あらゆる方法でインターネットにブロードバンドで接続しようというわけだ。
WiMAX 2へのコミット状況が明らかかと言えば、現時点では明らかではない。しかし、LTEがあるからWiMAX 2への対応は積極的にはならない、という選択はしていない。なにしろWiMAX 2の商用サービス開始は2年先のこと。どのようなプランで製品に組み込むか、またマーケティングプランとしてWiMAX 2にどのように取り組むかが、現時点で決まっていないのは当然のことだろう。
また、この半年~1年ほどの状況を見ると状況が大きく変化してきている。
もともとは3Gであふれることが確実なデータ通信トラフィックを、新たな通信規格にオフロードする目的からLTEを用い、高速化を含めさまざまな改善を順次進めていく。そうした予定だったが、そんな悠長なことは言っていられなくなってしまった。
ご存知の通り、携帯電話事業者自身も予想していなかったほど早く需要が立ち上がっているスマートフォンは、世界中の3G回線を圧迫し続けており、今もトラフィックの総量は増え続けている。すでに地域や時間帯によっては、日常的に輻輳(ふくそう)が発生し、電波表示レベルは高いのに通話発信やデータ通信ができないといったトラブルもひんぱんに耳にするようになっている。
このような状況では、あらゆる手段を用いてデータトラフィックを分散させなければ、収拾のつかない状況に陥ってしまう。ワイヤレスでの通信容量が絶対的に足りない、あるいは足りなくなる。
ちなみに、通信容量は周波数の帯域、電波の利用効率、基地局密度(セルのサイズ)の3つで決まる。セルサイズはすでに、人口密集エリアにおいてはかなり詰まった配置で最初から計画されている。その上で電波の利用効率向上(LTEの普及)を見込んでも通信容量が足りなくなると、すべての携帯電話事業者が考えている。
今後、無線LANスポットの大幅増設による固定回線へのオフロードなど、さまざまな工夫を続けていくことになるが、それでも限界はある。となれば、残る手段として周波数帯域を拡げるしかない。といっても、簡単に新たな割り当てスペースが降って湧くわけでもない。したがって、同程度に利用効率の高い複数のワイヤレス通信技術を組み合わせて利用することで、1つのネットワークにトラフィックが集中することを防ぐほかない。
UQの野坂社長もこのような風向きの変化を感じているようで「最近になって、状況は大きく変化してきている」と話す。すでに基地局のユニバーサル対応は進んでいるが、端末に関しても携帯電話やスマートフォン向けの回線が混んでいるなら、ポータブルルータやPC向けは、WiMAX 2などのデータ通信に特化したネットワークに流す方がいい。
「同じTDDだから、TD-LTEと競合するためWiMAX 2はダメ──といった話は聞いたことがある。しかし、これは話として面白おかしく書いているだけだと思う。TDDかFDDか、LTEかWiMAXかといった議論は問題ではない。無線LANも含め、どんな手段を使ってでもトラフィックを分散していかなければ、現実には対処できない」(UQコミュニケーションズの野坂社長)
この点で、WiMAXの普及が進んでいる日本(UQコミュニケーションズ)が、技術やノウハウの面でも一番進んでいると野坂社長は自負する。アメリカ、アジアからは、ここに来てWiMAXのネットワーク構築ノウハウを教えてくれ、という話が多数あるという。そこでアジア地区のWiMAX、WiMAX 2普及を促進させるため、各国から関係者を集めたカンファレンスも行っているという。
予想以上のスマートフォン/スマートデバイスの伸びが、UQコミュニケーションズにとって大きなプラス要因となり、WiMAX 2普及へのドライバとなる可能性がある。
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