「iPhone 4S」は進化した“意志の自転車”:発売直前レビュー(3/3 ページ)
かつてジョブズ氏はMacを「Wheels for the Mind」と呼んだが、iCloud時代の幕開けを飾る「iPhone 4S」は、進化した“意志の自転車”という表現がぴったりだ。林信行氏がiPhone 4Sの使用感をリポートする。
iPhone 4Sは、新しい時代の最初のステップ
iOS 5やiCloudは、何もiPhone 4Sだけの機能ではなく、すでに発売されている新型iPod touchやiPhone 4でも享受できることかもしれない。
しかし、これらの機能は通信速度が高速であればあるほど快適に利用できる。iPhone 4Sの通信速度は、ソフトバンクが採用するHSPDAでも従来の2倍程度だと思うかもしれないが、実は通信の速度というのは、必ずしも通信方式だけで左右されるものではない。
まず安定した電波も重要で、これについてはiPhoen 4Sは2つのアンテナを備え、電波のよいほうに切り替えながら通信をしてくれる(ちなみにiPhone 4では、アンテナ部分を指で覆うと受信感度が落ちるという問題が指摘されていたが、iPhone 4Sでいろいろな切れ込みを指で覆ってしばらく待っていても、なかなか受信感度が下がることはなかった。もしかしたら、アンテナを増やす以外にも何か工夫をしているのかもしれない)。
速い通信速度と、安定した電波環境も大事だが、実はCPUなどのプロセッサ処理能力も通信の速度に大きな影響を与える。どんなに通信機能がうまく働いていても、CPUが遅くてそこで処理が止まってしまっていたら元も子もないからだ。
その点iPhone 4Sは、通信速度、安定性に加えて、CPUそのものも圧倒的に速くなっており、通信によるタイムラグを表示更新速度の速さなどで十分補い、快適なiCloudの利用を実現してくれていると思う。
アップルは、ほかのメーカーのようにハードウェアだけを作るのでもなく、ほかのプラットフォームベンダーのようにOSだけを開発するのでもなく、その両方を双方向からブラシュアップすることで、他社が真似できない体験の製品を作り続けてきた。まず、ユーザーにとって最高の体験とは何かを考えたうえで、そこにあわせてハードウェアとソフトウェアの両面から調整をかけていく。これこそがアップル最大の強みでもある。
それでいうと、今後のアップルは、このハードとソフトの組み合わせに、さらにクラウドサービスもあわせた3つの側面からの擦り合わせで新しいデジタルライフスタイルを築こうとしている。そのiCloud時代の最初の製品となるのがこのiPhone 4Sだ。
人によっては、書類の更新がほかのデバイスに反映されるまでの十数秒のタイムラグを「長い」と感じる人がいるかもしれない。しかし、我々はこの新しい時代のほんの入り口に立ったばかり。今後、アップルはユーザーの声などに耳を傾けながら、ハード、ソフト、クラウドの擦り合わせによる新時代のデバイスの完成度を高めていくはずだ。iPhone 4Sは、その最初の1歩として、十分に魅力的な製品といっていいだろう。
関連記事
200以上の新機能:Apple、「iOS 5」を公開
米AppleはiOS 5の提供を開始した。クラウドサービスのiCloudに対応し、MacやWindows PCなしでセットアップやアップデートが行えるほか、多数の新機能を含む。写真で解説する「iPhone 4S」
米Appleの新型iPhone、「iPhone 4S」は、見た目の変化がほとんどなかったのに対し、中身は全く別物と言っていいほどの大きな進化を遂げた。さらにiOS 5でもたらされる新機能と相まって、触れば触るほどその魅力を実感する端末となっている。白、時計デザイン追加、値下げ:写真で見る“少しだけ”新しい「iPod touch」と「iPod nano」
「iPhone 4S」の発表と同じタイミングでiPodの新製品が2つ登場した。「iPod touch」にホワイトモデルが登場し、「iPod nano」はUIが改良され、ともに3000円から4000円ほど値下げされている。安い。ついにその日が来てしまった:スティーブ・ジョブズ氏の“航跡”を振り返る
スティーブ・ジョブズ氏が、2011年10月5日(現地時間)に亡くなった。同氏が21歳でAppleを創業してからの波乱に満ちた航海をもう一度たどってみたい。世界は偉大な人間を失った:スティーブ・ジョブズ氏、死去
アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏が亡くなった。追悼。“本当のチャレンジ”が始まる:ジョブズ氏退任に思うこと――アップルは2013年をどう乗り切るか
アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏がついにCEOを退任する。一度は潰れかかった“アメリカンドリーム”の象徴でもある会社を、その後わずか15年で世界の頂点まで導いたジョブズCEOの退任後、アップルは今日の勢いを保てるのか。林信行氏が分析する。林信行はどう見る?:過去最高益とジョブズ氏の不在――Appleのこれから
アップルのスティーブ・ジョブズCEOが病気療養に入る。このニュースにより2011年第1四半期(10~12月期)で過去最高益を達成した同社の株価は一時下落した。ジョブズ氏不在の影響は?スティーブ・ジョブスは“役者”でもあった:プレゼンテーションで振り返る“Apple=ジョブズ”
その場にいるすべてのアップルファンを心酔させるジョブズ氏の講演は、アップル文化の源といってもいい。ここでは“役者"としてのジョブズ氏の姿をまとめてみた。Macを未来へといざなう最新OS:ついに降り立った未来のパソコン環境――「OS X Lion」に迫る
待望のMac最新OS、「Lion」がついに登場した。Mac OS Xの最初のバージョンが出たのが2001年、それからちょうど10年目のLionは、これから先10年に渡ってPCの在り方を左右する、分岐点的なOSになると言っても過言ではないだろう。1984年に登場し、マウス操作を世界へ広げたMacが、今まさにPCの新しい時代、新しい操作を開拓しようとしている。WWDC 2011基調講演リポート(5):アップルが向かう先――WWDC 2011の基調講演に思うこと
「Worldwide Developers Conference 2011」を現地で取材した林信行氏が、基調講演の発表内容を受けて感じた印象やアップルへの想いをつづる。「iCloud」はアップルが10年かけて実現した夢の始まりなのか。WWDC 2011基調講演リポート(4):デジタルライフの中心は「クラウド」へ――アップルが目指すデジタルハブ戦略の第2章
WWDC 2011の基調講演で発表された内容のうち、これまで紹介した「OS X Lion」「iOS 5」に続いて、最も注目される「iCloud」について見ていく。プレゼンはジョブズCEO自身が行った。WWDC 2011基調講演リポート(3):「iOS」は繊細な軌道修正でさらなる発展を目指す
すでに一部の機能が紹介されていた「OS X Lion」と異なり、iPhone/iPod touch/iPad向けの「iOS 5」は、まったく情報がない状態からの発表となった。200の新機能から厳選して紹介された10の機能は、いずれも今後のiOS機器の方向性を予見させる充実した内容だ。WWDC 2011基調講演リポート(2):PCのあり方を再定義する「OS X Lion」
2時間超にわたるWWDC 2011基調講演のテーマは、「OS X Lion」「iOS 5」そして「iCloud」の3つだが、まずはフィル・シラー氏とクレイグ・フェデリギ氏が紹介したLionの内容について見ていこう。WWDC 2011基調講演リポート:クラウドを中心にしたデジタルハブ――ポストPC時代の幕開け
WWDC 2011で行われた基調講演の模様を林信行氏がリポート。「Mac OS X Lion」「iOS 5」そして「iCloud」。この3つのトピックから浮かび上がる次世代のデジタルハブ構想について考える。WWDC 2011:示されたのは「新たな飛躍」――Appleが実現するモバイル&クラウド時代の理想像
米国で6月6日に開催されたWorldwide Developer Conference 2011(WWDC 2011)の基調講演でAppleが明かした「OS X Lion」「iOS 5」「iCloud」は、2007年からAppleが起こしてきた革新の第2章だ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.