「Xperia Tablet Z」開発者インタビュー(前編)――極限の防水スリムボディを徹底解剖する:商品企画、デザイン、機構設計編(4/4 ページ)
短期間で驚くべき進化を遂げた「Xperia Tablet Z」。防水防塵の超薄型軽量ボディをどのように実現したのか? 強度は問題ないのか? 開発陣にじっくり話をうかがった。
薄型軽量、防水防塵、そして強度も確保する機構設計の秘密
―― 機構設計の立場から薄型化、軽量化のポイントを教えてください。
守屋氏 まず薄さ7ミリ以下、重量500グラム以下というテーマですが、これまでと同じやり方でやっていては、まず無理な水準です。大きな変化をつけなくてはいけない、という意識で開発を進めました。
タブレットの厚さは、液晶ディスプレイ、バッテリー、リア(背面)パネル、この3つでほぼ決まりますが、最終的には、これらをそれぞれ約20%ずつ薄型化しています。また、基板はできるだけ小さく、厚みが必要になるカメラやヘッドフォン出力端子は、液晶パネルのないところにレイアウトするという工夫をしました。
―― 今回、リアパネルにはグラスファイバーを採用していますね。
守屋氏 はい。強度があるもので、重量が軽いという条件で探した結果、グラスファイバーになりました。先代機は金属のシャシーによって強度を確保していたのですが、どうしても重くなってしまいます。デザイン的には(スマートフォンのXperia Zと同様に)ガラスを使いたいというリクエストもあったのですが、やはり重くなってしまうので断念してもらいました。
グラスファイバーはアンテナの特性を考えた場合でも都合のよい素材です。金属やカーボンなどは電波を遮断してしまうので、アンテナ収納部だけは樹脂にするなどの工夫が必要になります。
そうすると、金属と樹脂の境目や質感の違いが表面に出てしまい、デザイナーには嫌われてしまうのですが、グラスファイバーならば心配いりません。電波を通してくれるので、リアパネル全体を1枚のグラスファイバーパネルでまかなえるのです。
―― ここまで薄型軽量にして、ボディの強度に問題はないのでしょうか?
守屋氏 強度に関しては、これまでとは異なるアプローチをしています。先代機は内部に金属(マグネシウム合金)の骨格を作って支えることで、強度を確保していました。今回のXperia Tablet Zでは外装に強度のある素材を使い、全体を箱形にして強度を確保する方法に変更しました。
設計の変更に伴い、新たに構造的な工夫もしています。金属の骨格がない代わりに、内部にグラスファイバー入り樹脂のフレームを配置し、その外周にできるだけ柱となるような構造を作りました。グラスファイバーのリアパネルは0コンマ何ミリという薄さのため、見た目にはペラペラで、単体では下敷きのような感じで曲がったりもしますが、平面的な圧力に対しては非常に強い素材です。これをフレームと貼り合わせて一体化して使うことで、飛躍的に剛性が上がります。
ここにリアパネルとディスプレイ、フレームだけを組み合わせたサンプルがあります。中にバッテリーや基板が入っていないスカスカの状態ですが、ぜひ触ってみてください。これだけでも十分な剛性が感じられるはずです。
―― 確かに非常に高い剛性を感じます。中身がないのにペコペコと部分的にへこむようなこともまったくないですね。
守屋氏 ほかの素材もいろいろテストしましたが、これに優るものはないという結論に至りました。リアパネルの具体的な薄さは非公開ですが、さまざまなテストをして決めています。
防水と防塵のため、キャップ付近のフレームなどは非常に薄いのですが、これもディスプレイやリアパネルと一体化させることで、高い強度を確保しています。キャップ付近は、デザイナーからもできるだけ境目を消し込みたいというリクエストがあり、非常に大変だったのですが、部分的に金属の梁(はり)を付けるなどして剛性にこだわりました。
―― IPX5/7相当の防水とIP5X相当の防塵性能はどのようにして確保したのでしょうか?
守屋氏 防水用の接着紙で貼り合わせています。コネクタ部分については、シリコンのパッキンでフタをするような形にしました。パッキンの形状、作り方など、ソニーモバイルにはすでに携帯電話で培った防水防塵のノウハウがありますので、それが非常に大きかったですね。
私自身はこれまでVAIOノートや初代「Sony Tablet S」などの設計をしてきたのですが、防水や防塵の設計を想定してはいません。今回ここまで薄型軽量のタブレットに防水防塵を取り入れられたのは、ソニーモバイルとして開発体制を整えたことが大きな成果だと思います。
―― 薄型軽量化しながら、バッテリーの容量は従来と同じ6000ミリアンペアアワーを確保しています。ただし、駆動時間は微減(Web閲覧で約10時間から約8.2時間になった)しました。これは高解像度の液晶が大きいと思いますが、バッテリーはどのように実装しているのでしょうか?
守屋氏 バッテリーは体積を減らせないので、ボディを薄くしたぶん面積を広くしています。そのためにバッテリーのセルはまたソニーで専用品を作ってもらいました。従来は2セルでしたが、今回は3セルで同じ容量のリチウムイオンバッテリーです。
Xperia Tablet Zでは液晶ディスプレイの高解像度化により消費電力が高くなり、バッテリー駆動時間に影響を与えていますが、バッテリーの大容量化で厚さや重さが増すより、薄型ボディで同じ容量を確保するというバランスを選択しました。
防水性、防塵性の規格内容 | ||
---|---|---|
IPコード | 意味 | 試験内容 |
IPX4 | 水の飛沫(ひまつ)に対して保護する | 散水ノズルを使用し、約20センチの距離から約0.07リットル/分の水を最低5分間散水する条件で、鉛直方向に対して180度の方向から水滴を当てる |
IPX5 | 噴流に対して保護する | 内径6.3ミリの放水ノズルを使用し、2.5~3メートルの距離から約12.5リットル/分の水を最低3分間注水する条件で、あらゆる方向から噴流を当てる |
IPX7 | 水に浸しても影響がないように保護する | 常温で水道水、かつ静水の水深1メートルのところに沈め、約30分間放置する |
IP5X | 塵埃(じんあい)の侵入を完全に防止することはできないが、電気機器の所定の動作および安全性を阻害する量の塵埃は侵入しない | 直径75マイクロメートル以下の塵埃が入った装置に8時間入れてかくはんさせる |
後編では、液晶ディスプレイとカメラの担当者へのインタビューをお届けする。
関連キーワード
タブレット | Xperia | Xperia Tablet | Xperia Tablet Z SO-03E | Xperia Tablet Z | ソニーモバイルコミュニケーションズ | グラスファイバー | Sony Tablet S | Xperia Tablet S | NTTドコモ | インタビュー | Snapdragon | Xperia Z | Androidタブレット
関連記事
液晶ディスプレイ、カメラ、総括編:「Xperia Tablet Z」開発者インタビュー(後編)――超薄型と高画質を両立できた謎に迫る
極薄、軽量、防水、防塵のボディが際立つ「Xperia Tablet Z」だが、液晶ディスプレイやカメラの品質にもこだわり抜いている。相反する要素をいかにして両立したのか?新旧モデル、ライバル機との比較も:これぞ本命!?――大変身した「Xperia Tablet Z」のWi-Fiモデルを速攻チェック
ソニーのタブレットが劇的に進化した。「Xperia Tablet S」の登場から半年足らずでのフルモデルチェンジも、トレードマークのラップデザインを捨てた超薄型フォルムも驚きだ。生まれ変わった「Xperia Tablet Z」をじっくりと観察しよう。純正アクセサリも同時発売:ソニー、「Xperia Tablet Z」のWi-Fiモデルを4月13日発売
ソニーは10.1型Androidタブレット「Xperia Tablet Z」のWi-Fiモデルを4月13日に発売する。先に発表されたドコモ販売モデル「SO-03E」からLTE/3G機能などを省いた製品だ。ドコモ タブレット:500グラムを切る10.1インチ防水タブレット「Xperia Tablet Z SO-03E」
「Xperia Tablet Z」は、Androidスマートフォン「Xperia Z」とデザインのテイストを合わせた10.1インチディスプレイのAndroidタブレット。厚さは6.9ミリととても薄く、10.1インチクラスのタブレットながら重さは495グラムととても軽い。今春日本で発売予定:ソニーモバイル、LTE対応の防水タブレット「Xperia Tablet Z」を発表
ソニーモバイルが、10.1インチのワイドUXGAディスプレイを搭載した防水タブレットを今春、日本で発売する。6.9ミリ、495グラムというスリムで軽量なボディを実現。LTE通信もサポートする。開発者ロングインタビュー後編:「Xperia Tablet S」はAndroidタブレットの限界を超えていく
先代機から薄型軽量になったソニーの9.4型Androidタブレット「Xperia Tablet S」。そのタッチ液晶とオーディオ設計には、スペック表からは分からない独自のこだわりが多数詰まっていた。開発者ロングインタビュー前編:「Xperia Tablet S」の防滴・薄型軽量・長時間駆動はいかに実現したか
ソニーの9.4型Androidタブレット「Xperia Tablet S」は、従来機から薄型化と軽量化を果たしつつ、防滴仕様と長時間駆動も兼ね備えた。そのボディに秘められたソニーならではのこだわりを開発陣にうかがった。ソニー、販売一時停止中の「Xperia Tablet S」を11月中旬より販売再開
ソニーは、不具合につき販売を一時停止していたAndroidタブレット「Xperia Tablet S」の販売を11月中旬より順次再開すると発表。購入者への無償点検・修理の受け付けも開始した。ソニー、「Xperia Tablet S」販売一時停止 防滴性能に不具合の可能性
ソニーが9月に発売したAndroidタブレット「Xperia Tablet S」の一部製品で、仕様上の防滴性能を満たせない不具合がある可能性があるとして販売を一時停止すると発表した。いよいよ明日発売!:「Xperia Tablet S」徹底検証(後編)――“ソニーならでは”の付加価値に迫る
ソニーの第2世代目となるAndoridタブレット「Xperia Tablet S」が2012年9月15日に発売される。発売直前に独自のアプリ、サービス、機器連携をじっくりチェックした。ブランド一新、中身はどうだ?:「Xperia Tablet S」徹底検証(前編)――Sony Tabletからの進化を見極める
装いも新たに「Xperia Tablet S」として生まれ変わったソニーのAndroidタブレット。グッと洗練された薄型デザインに防滴仕様、タッチパネルの感度向上、高音質化、そして豊富な純正アクセサリや独自アプリまで、見どころ満載だ。9月15日発売、4万円前後から:ソニー、薄型化・防滴化したAndoridタブレット「Xperia Tablet S」を国内発表
8月末に海外で発表されたソニーの9.4型Androidタブレット「Xperia Tablet S」がついに国内でも登場。豊富な純正アクセサリとともに、9月15日に発売される。動画を再生しながらWeb閲覧が可能に:Android 4.0.3搭載の「Sony Tablet」で“スモールアプリ”を試す
4月下旬にAndroid 4.0.3へのアップデートが実施される「Sony Tablet」。その目玉となる「スモールアプリ」は、2つのアプリを同時に操れる便利な新機能だ。スモールアプリやBDレコーダー連携も:ソニー、「Sony Tablet」のAndroid 4.0.3アップデートを4月下旬に提供
ソニーは4月下旬、「Sony Tablet」用の「Android 4.0.3を含むシステムソフトウェアアップデート」を無償提供する。マルチタスクを利用したスモールアプリや、同社製BDレコーダーとの連携機能が特徴だ。“P”発売同時にアップデート:ソニーが「Sony Tablet」向けサービスを拡充――電子書籍/地図情報/Skypeアプリ
「Sony Tablet S(3G+Wi-Fiモデル)」と「Sony Tablet P」の発売日となる10月28日、ソニーは予告していたSony Tablet向けサービスの拡充を行った。ドコモ、「Sony Tablet S」「Sony Tablet P」を10月28日に発売
NTTドコモがSony Tablet SおよびPの3G+Wi-Fi対応モデルの発売日を10月28日と発表。10月19日から事前予約を受け付ける。料金プランはデータ通信用の料金プランが利用でき、月額料金の上限を1050円割り引く「FOMAタブレットスタートキャンペーン」も実施する。発売記念・特大レビュー:ソニーらしさはAndroidタブレットでも健在か?――「Sony Tablet S」徹底検証
鳴り物入りで登場した「Sony Tablet」はAndroidタブレットの決定打になるのか? いよいよ本日発売の「S」シリーズ32Gバイト/Wi-Fiモデルをじっくり使ってみた。S1は「S」シリーズ、S2は「P」シリーズに:ソニーが“Sony Tablet”の詳細を発表――9月17日より順次発売
2011年4月の発売予告から約5カ月、いよいよ“Sony Tablet”が発売される。ラインアップは9.4型の「S」シリーズと5.5型×2画面構成の「P」シリーズだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.