「Xperia Tablet Z」開発者インタビュー(前編)――極限の防水スリムボディを徹底解剖する商品企画、デザイン、機構設計編(4/4 ページ)

» 2013年04月04日 10時30分 公開
[鈴木雅暢(撮影:矢野渉),ITmedia]
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薄型軽量、防水防塵、そして強度も確保する機構設計の秘密

―― 機構設計の立場から薄型化、軽量化のポイントを教えてください。

機構設計を担当した守屋氏

守屋氏 まず薄さ7ミリ以下、重量500グラム以下というテーマですが、これまでと同じやり方でやっていては、まず無理な水準です。大きな変化をつけなくてはいけない、という意識で開発を進めました。

 タブレットの厚さは、液晶ディスプレイ、バッテリー、リア(背面)パネル、この3つでほぼ決まりますが、最終的には、これらをそれぞれ約20%ずつ薄型化しています。また、基板はできるだけ小さく、厚みが必要になるカメラやヘッドフォン出力端子は、液晶パネルのないところにレイアウトするという工夫をしました。

―― 今回、リアパネルにはグラスファイバーを採用していますね。

守屋氏 はい。強度があるもので、重量が軽いという条件で探した結果、グラスファイバーになりました。先代機は金属のシャシーによって強度を確保していたのですが、どうしても重くなってしまいます。デザイン的には(スマートフォンのXperia Zと同様に)ガラスを使いたいというリクエストもあったのですが、やはり重くなってしまうので断念してもらいました。

 グラスファイバーはアンテナの特性を考えた場合でも都合のよい素材です。金属やカーボンなどは電波を遮断してしまうので、アンテナ収納部だけは樹脂にするなどの工夫が必要になります。

 そうすると、金属と樹脂の境目や質感の違いが表面に出てしまい、デザイナーには嫌われてしまうのですが、グラスファイバーならば心配いりません。電波を通してくれるので、リアパネル全体を1枚のグラスファイバーパネルでまかなえるのです。

リアパネルにはグラスファイバーを採用(写真=左)。取り外したリアパネルの裏側(写真=右)。リアパネルは0コンマ何ミリという薄さだ。強度があり、重量が軽く、またカーボンや金属のように電波を遮る心配もないという

―― ここまで薄型軽量にして、ボディの強度に問題はないのでしょうか?

ボディは表、裏、上、下、左、右の面に強度のある素材を使い、これらを箱形に組んで薄型軽量と剛性を両立する6プレート構造とした

守屋氏 強度に関しては、これまでとは異なるアプローチをしています。先代機は内部に金属(マグネシウム合金)の骨格を作って支えることで、強度を確保していました。今回のXperia Tablet Zでは外装に強度のある素材を使い、全体を箱形にして強度を確保する方法に変更しました。

 設計の変更に伴い、新たに構造的な工夫もしています。金属の骨格がない代わりに、内部にグラスファイバー入り樹脂のフレームを配置し、その外周にできるだけ柱となるような構造を作りました。グラスファイバーのリアパネルは0コンマ何ミリという薄さのため、見た目にはペラペラで、単体では下敷きのような感じで曲がったりもしますが、平面的な圧力に対しては非常に強い素材です。これをフレームと貼り合わせて一体化して使うことで、飛躍的に剛性が上がります。

 ここにリアパネルとディスプレイ、フレームだけを組み合わせたサンプルがあります。中にバッテリーや基板が入っていないスカスカの状態ですが、ぜひ触ってみてください。これだけでも十分な剛性が感じられるはずです。

Xperia Tablet Zの内部写真(写真=左)。バッテリー容量は先代と同じ6000ミリアンペアアワーを3セルで構成している。本体とともにバッテリーも薄型化され、そのぶん面積が広くなった。基板はバッテリーと重ならないよう短辺の端に寄せられている。内部に金属のフレームはなく、グラスファイバー入り樹脂のフレームが上下左右の4辺を囲んでいる。先代モデル(Xperia Tablet S)の内部写真(写真=右)。強度を補うため、マグネシウム合金ダイキャストの内部フレームにバッテリーや基板を組み付けている。中央に内蔵した6000ミリアンペアアワーのバッテリーは2セルで構成されている

Xperia Tablet Zに内蔵されたグラスファイバー入り樹脂製フレームの表と裏。外周部に柱となるような構造を太めに作り込みつつ、リアパネル/液晶ディスプレイとの接触面を広めに取っていることが分かる。中央部には空洞で、ここに薄型バッテリーや基板を組み付ける

―― 確かに非常に高い剛性を感じます。中身がないのにペコペコと部分的にへこむようなこともまったくないですね。

守屋氏 ほかの素材もいろいろテストしましたが、これに優るものはないという結論に至りました。リアパネルの具体的な薄さは非公開ですが、さまざまなテストをして決めています。

 防水と防塵のため、キャップ付近のフレームなどは非常に薄いのですが、これもディスプレイやリアパネルと一体化させることで、高い強度を確保しています。キャップ付近は、デザイナーからもできるだけ境目を消し込みたいというリクエストがあり、非常に大変だったのですが、部分的に金属の梁(はり)を付けるなどして剛性にこだわりました。

―― IPX5/7相当の防水とIP5X相当の防塵性能はどのようにして確保したのでしょうか?

今回は箱形の構造により、外周フレームの側面に開いた穴を接着紙などでふさぐことで、防水と防塵を実現している。通常の構造より接着紙が少なくてすみ、構造の簡素化や軽量化につながっているという

守屋氏 防水用の接着紙で貼り合わせています。コネクタ部分については、シリコンのパッキンでフタをするような形にしました。パッキンの形状、作り方など、ソニーモバイルにはすでに携帯電話で培った防水防塵のノウハウがありますので、それが非常に大きかったですね。

 私自身はこれまでVAIOノートや初代「Sony Tablet S」などの設計をしてきたのですが、防水や防塵の設計を想定してはいません。今回ここまで薄型軽量のタブレットに防水防塵を取り入れられたのは、ソニーモバイルとして開発体制を整えたことが大きな成果だと思います。

―― 薄型軽量化しながら、バッテリーの容量は従来と同じ6000ミリアンペアアワーを確保しています。ただし、駆動時間は微減(Web閲覧で約10時間から約8.2時間になった)しました。これは高解像度の液晶が大きいと思いますが、バッテリーはどのように実装しているのでしょうか?

守屋氏 バッテリーは体積を減らせないので、ボディを薄くしたぶん面積を広くしています。そのためにバッテリーのセルはまたソニーで専用品を作ってもらいました。従来は2セルでしたが、今回は3セルで同じ容量のリチウムイオンバッテリーです。

 Xperia Tablet Zでは液晶ディスプレイの高解像度化により消費電力が高くなり、バッテリー駆動時間に影響を与えていますが、バッテリーの大容量化で厚さや重さが増すより、薄型ボディで同じ容量を確保するというバランスを選択しました。

防水性、防塵性の規格内容
IPコード 意味 試験内容
IPX4 水の飛沫(ひまつ)に対して保護する 散水ノズルを使用し、約20センチの距離から約0.07リットル/分の水を最低5分間散水する条件で、鉛直方向に対して180度の方向から水滴を当てる
IPX5 噴流に対して保護する 内径6.3ミリの放水ノズルを使用し、2.5〜3メートルの距離から約12.5リットル/分の水を最低3分間注水する条件で、あらゆる方向から噴流を当てる
IPX7 水に浸しても影響がないように保護する 常温で水道水、かつ静水の水深1メートルのところに沈め、約30分間放置する
IP5X 塵埃(じんあい)の侵入を完全に防止することはできないが、電気機器の所定の動作および安全性を阻害する量の塵埃は侵入しない 直径75マイクロメートル以下の塵埃が入った装置に8時間入れてかくはんさせる

 後編では、液晶ディスプレイとカメラの担当者へのインタビューをお届けする。

・→後編 超薄型と高画質を両立できた謎に迫る

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