Windows 11“24H2”と「AI PC」の実際 Windows 12はどうなる?:Windowsフロントライン(2/2 ページ)
Microsoftの次期OSと見られるWindows 11 “24H2”は“Windows 12”となるのか? はたまた“AI PC”とは何を指すのか? 現状の情報から考察していこう。
「AI PC」はセールスポイントになるのか
そもそも、AI PCの定義とは何なのか。
GPTのようなクラウド連携をある程度想定したCopilotのみならず、今後Windowsでは学習済みの“推論エンジン”がさまざまな形で搭載されるようになり、より効率的で“賢い”動作が可能になった機能やサービスが提供されることになる。
既にスマートフォンなどではおなじみになりつつあるが、音声のテキスト書き起こしやビデオ通話での高画質化、ノイズ除去、より高度で利用実態に基づいた検索機能など、地味ではあるが補助機能の数々が“使える”レベルで利用できることを想像すればいい。
推論エンジンの実行そのものは、機械学習にかかる負荷よりは少なくなるものの、汎用(はんよう)的なCPUコアで実行させるには、パフォーマンスと電力消費の両面でいささか効率が悪い。そこで推論エンジンをより効率的に実行できるよう、専用の演算回路を提供するのがNPU(Neural-network Processing Unit)の役割だ。
基本的に現在のコンピューティングの世界では、推論エンジンの実行はNPUやGPUが主に活用されることが多い。前回で触れた通り、NPUに関してIntelはMeteor Lakeこと最新のCore Ultraプロセッサで対応を果たしたが、この分野ではAMDの他に、スマートフォンの世界でいち早く対応を行ったQualcommのSnapdragonなどが先行する。
Windows PC向けに提供されているSnapdragonについては、全SoCにNPU相当の機能が標準搭載されているものの、AMDは2023年から順次ラインアップに展開中、IntelについてはMeteor LakeのターゲットがモバイルPC限定の上、現状でCore Ultraというハイエンド相当の製品に限定される。
Intelのデスクトップ向けプロセッサは2024年後半の登場が見込まれるArrow Lake(開発コード名)まで、現行のRaptor Lake(Refresh)が代行することになるなど、戦略的にNPUの存在を積極的にアピールしづらい。
また、仮にこれらプロセッサが市場に登場しても、実際に多くのPCがNPU搭載モデルに置き換わるまでにはさらに数年を要することになるため、Windows 11が24H2以降にAI対応機能を大幅に強化したとしても、その特徴は多くの環境で必ずしも生かされるわけではない。
加えて、いくらNPUで効率よく推論エンジンを実行できるようになったとして、これそのものはPCの買い換えを促す大きな原動力にはなりにくい。今後「AI PC」というキーワードはたびたび登場することになると思われるが、当面はこれで何かが大きく変わるというよりは、Microsoftや業界関係者がPCの次の方向性を示すためのキャッチフレーズ的なものだと捉えておくのが正しいのかもしれない。
「AI PC」が短期間で認められることについては懐疑的だが、Microsoft自身はCopilotを皮切りにWindowsがAIによってさらに進化し続けることを示しつつ、推論エンジンを含む周辺環境を整備して実際にそのアイデアが有効であることを示さなければならない。
AI処理性能が今後さらに求められ、AI PCにおけるメインメモリは最低でも16GBを要求するようになり、これがコンポーネント供給側もユーザーのさらなるニーズも喚起すると予測するレポートもあるが、実際にはMicrosoftは現状の最低システム要件にほとんど手を入れることはなく、AI PCに求めるスペックはあくまで(快適に利用するための)推奨要件に留めると筆者は考えている。
いわゆるx86 PCの動きが市場状況もあってまだ弱含みな中、AI PC方面ではむしろArmプロセッサの方が興味深い動きをしているかもしれない。
Google ChromeがWindows on Armにネイティブ対応を進めている話が出ており、2024年の夏にOryonベースのCPUコアを採用したSnapdragon X Elite搭載Windowsマシンが市場投入される見込みなど、市場が盛り上がりそうな気配が出ている。
AI PCというカテゴリーで見たとき、Windows on Armの世界では初期のモデルからNPU対応が進んでいるなど、x86 PCと比較すると移行のハードルが低い。普及率でいえば、まだx86ベースのPCには遠く及ばないものの、これだけArmにMicrosoftがコミットし、さらに同社が展開するSurface PC製品ラインアップ全てにArmモデルを用意しようとしている現状を鑑みれば、2024年のPC業界におけるダークホースは、Arm PCにあるのではないかという考えも出てくる。
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