M3搭載新型「MacBook Air」は“1世代分以上”の価値をもたらす 実機を試して分かったこと(2/3 ページ)
「MacBook Air」が最新のM3チップ搭載モデルに生まれ変わった。パッと見では分からない新旧モデルで違いはあるのだろうか。林信行氏が実機を試した。
アプリ性能は20%向上 使用感の向上はそれ以上
では、M3チップの搭載でM2と比べてどれくらい速くなるのだろうか。専用のツールを使って計測すると、ほとんどのテストで確実に20%ほどは速くなっているのが分かる。しかし、実際にそれは人間が感じ取れる違いだろうか。ほぼ同スペックのM2版MacBook Airと比較をしてみたが、それぞれ単体で使っている限りにおいてはそれほど違いを感じることはない。
試しに、3Dレイトレーシングアプリの「Blender」や音声文字起こしアプリの「Whisper Transcription」を使ったテストも行い、動作速度の違いを検証するビデオも撮影してみたが、筆者が用意できるデータでは、そこまで大きな差が出なかった。
Whisper Transcriptionによる20分の音声書き起こしもM3が8分51秒だったのに対して、M2が9分11秒と3%程度の性能向上にとどまっていた。
定番のベンチマークテストであるGeekbench 6を使って、M2版MacBook AirとM3版MacBook Airの性能を比較した。グラフは、M2 MacBook Airのスコアを1としてM3 MacBook Airを表したものだ。コア1個あたりの性能もマルチコアでの性能もM2版MacBook Airからほぼ20%アップだが、細かな個々のテスト項目に目を向けてみると、レイトレーシング処理の性能がシングルコアで36%、マルチコアで30%と飛び抜けて大きく向上していることが分かった。同様にシングルコア性能ではHTML 5ブラウザの機能も31%と大きな性能向上を見せていた。マルチコアでのパフォーマンス向上が、シングルコアよりも下がっているのは性能よりもエネルギー効率優先の高効率コアの性能が影響しているためだろう
映像だったり、音だったり、3Dだったり、AI処理だったりといったPCに高い負荷をかけ続ける処理を行わなければ、MacBook ProとMacBook Air、M3版MacBook AirとM2版MacBook Airの違いに気がつくことは少ないかもしれない。
一方、今回、M3搭載MacBook Airの登場によって現役を引退した初代Appleシリコン、M1と比べると35%高速だ。これくらいの差があると、操作によっては少し違いが気になることがある。
iPhoneであれば2世代前の製品を売り続けることもあるのに、AppleがM2を現役で残し、M1の販売を終了させたのは、この日常的に気がつく速度差の有無が理由ではないかと思われる。
最もM2とM3の差は、今回比べた状態が永続するわけではない。M3には、いくつかM3ならではの特徴がある。
例えば最近、一部で注目を集めている高圧縮の動画フォーマット「AV1」、M3チップでは、メディアエンジンでハードウェアデコードできる。
GPU性能も大幅に向上し、メッシュシェーディングやレイトレーシングという処理ではM2チップとの差は20%、M1との比較では60%も高速だ。
同様に写真を画像認識してよりユーザーが望む写真にAI処理してくれる「Luminar Neo」や音声の書き起こしアプリのWhisper TranscriptionなどのAI処理を基盤としたアプリではM3の方が動作が快適だ。
いや、それだけではない。これから扱うデータがますます大容量化していく中で、実はMacBook Airは無線LANも進化を果たし、規格化されている中では最新のWi-Fi 6Eに対応した。これまでのWi-Fi 6との比較で最大で2倍のダウンロードおよびストリーミング性能を実現している。
つまり、今後、画面上でリアルタイムのレイトレーシングを使った3D表現を多用するアプリが増え、AI技術を基盤にしたアプリが増え、Wi-Fi 6Eに対応したルーターが増えていくと、それに合わせてM2版MacBook AirとM3版MacBook Airの使い勝手は少しずつ開いていくことになる。
そして、両者のこの差によって、M3版MacBook Airの方が製品寿命を現役で使い続けられる期間も長くなる可能性が高い。
M2版MacBook AirとM3版MacBook Airには現状で約1万6000円の価格差があるが、同じMacBook Airを長く使い続けることを考えるのなら、予算が許すならM3版MacBook Airを買った方が良いのは、このためだ。
ここで、実際に筆者よりも長い期間、M3版MacBook Airを本格的に使い込んでいる人の声も紹介しよう。
高校生の時からプログラマーとしての能力を発揮し、Apple主催の「Swift Student Challenge」というプログラミングコンペで複数回入選している注目の若手プログラマーで、米国テイラー大学の学生でもあるブレイデン・ゴジス(Brayden Gogis)さんだ。
彼はM3版MacBook Airのニューヨークでの発表会にも招かれ、同製品を発表直後から本格的に使い込んでいる。
ゴジスさんの意見を聞いて、実は筆者が行っていたアプリ単位での速度検証で見落としていた重要な利点に気付かされた。それは複数のアプリを同時使用して切り替える際の快適さだ。
「学校関係の作業をしたり、コーディングをしたりと、いくつもの作業を切り替えながら行っているが、M3版MacBook Airはそういった作業の切り替えに遅れることなくついてきてくれる」というのだ。
2019/2020/2021年のApple Swift Student Challengeの受賞者で、20歳を前に既に10のアプリを開発しているBrayden Gogisさん。実はApple Arcadeで配信中の「SpongeBob SolitairePants」の開発者でもある。ジョークとして開発していたアプリをAppleのデベロッパーリレーションが見出し、人気アニメ「スポンジボブ」の提供会社と話をつけてくれたという。最新アプリの「Joybox」は、感謝と純粋なつながりに焦点を当てた、よりマインドフルなソーシャルメディアだ。ちなみに、M3版MacBook Airの「ミッドナイト」モデルが特殊な酸化被膜加工で指紋がつきにくくなったことも気に入っているという
ちなみにゴジスさん、本職のプログラミングにおいても発見があったという。
「M3搭載の新MacBook Airの性能が、これまでできなかったことを可能にし、私の開発ワークフローが変わりました。XcodeのSwiftUI(アプリの操作画面を作るソフト)のコンパイルが劇的に速くなり、コードを書くやいなや、ライブでテストができるようになったのです」とも語っている。
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