2016年、IBMの「コグニティブ・コンピューティング」が実現するVRMMO「ソードアート・オンライン」の世界:“ザ・ビギニング”アルファテスト体験リポート(3/3 ページ)
突如発表された日本IBMとのコラボレーション「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」。SAOの世界観を体験できる日本IBMの先進技術とは? “アルファテスト”と称したイベントの中身とは?――ちゃんとログアウトできたので、こうしてレポート記事を書けている。
「ユイ」のアドバイスはコグニティブ・コンピューティングだった?
実はこのコグ(CV:伊藤かな恵)こそが、IBMが提唱する「コグニティブ・コンピューティング」が未来のゲームで活用されたら何ができるのかをイメージしたキャラクターとなっている。
日々、世の中に生み出される膨大なデータのうち、80%がコンピュータでは処理できない非構造化データといわれている。非構造化データとは画像や音声、動画、最近ではSNS上の書き込みというような、コンピュータが内容を理解できないデータのことを指す。コグニティブ・コンピューティングはこのような自然言語(話し言葉)、文字、視覚情報を人と同じように理解し、推論し、時間とともに推論能力を進化させていくというものだ。これはまさにIBMが開発した意思決定支援システム「IBM Watson」そのものである。
人の脳を模範する「人工知能(AI)」とは異なり、膨大なデータから人の意思決定や課題解決のためのサポートを行うシステム、これこそコグニティブ・コンピューティングの目指すものだ。残念ながら、今回のゲーム中でWatsonの技術が使われているわけではなく、コグとの会話も一方的に解説してくれるのみ。しかし、コグニティブ・コンピューティングが近い将来ゲームで活用されれば、コンピュータである“ユイ”と主人公のキリトたちが劇中で自然に会話していたあの姿が現実のものとなる。
世界中から問い合わせが殺到
日本アイ・ビー・エム マーケティング&コミュニケーション コミュニケーション&ブランドエクスペリエンス本部長の山口優希子氏(左)と、ワン・トゥー・テン・ホールディングス 最高執行責任者/クリエイティブディレクターの小川丈人氏(右)。なお、今回詳しくお話を伺ったのは日本IBMの鈴木氏となる。念のため
「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」の企画、開発を担当したワン・トゥー・テン・ホールディングスの最高執行責任者/クリエイティブディレクターの小川丈人氏と、日本IBM マーケティング&コミュニケーションズ広報の鈴木恭平氏に詳しい話を聞いてみた。
―― 今回のイベントを開催した意図は?
小川氏 IBMの新技術によって世の中を変えていく力、未来を実感できるような新しい体験の創造、その未来感を一般の方にどう伝えていくかをIBM様と一緒に考え、今回のような「まだ実現していないはずのゲームを最新の技術を使ってどこまで具現化できるか」というプロジェクトの実施に至りました。SAOはとてもターゲットが幅広い作品です。ティーンエイジャーはもちろん、IBMの研究員の方にもたくさんのファンがいらっしゃいます。先進感、未来への期待を感じさせるコンテンツを考えたときに、SAOのコンセプトは最高にマッチングすると考えました。そこで原作者の川原先生にコラボレーションをご相談し、ご快諾を頂くことができました。
発表当初、日本語のプレスリリース上では“先端の技術を体感できるストーリーの一環”であると伝えることができましたが、日本語のニュアンスがうまく伝わらない海外の方からは、「本当に(SAOの世界を)実現できるのか」「いつ発売されるのか」という声を非常に多く頂きました。このようなムーブメントを担えたことはとてもうれしいです。
鈴木氏 SAOが好きな方に体験していただくと、世界観に忠実であるということを実感いただけるかなと。テクノロジーを使えばこういうことができるんだよ、ということを見せたいのです。その上で(SAOのような)コンテンツは非常に大事です。そして今回のゲームの基盤にもなっているIBMのクラウドサービス「SoftLayer」上でコンテンツをつくって頂ければうれしいですね。
最初に情報を出したとき、やたらバズったんですよ。海外の方々からも事務局や関係者宛にメッセージをたくさん頂きました。
―― 抽選で選ばれた208人限定というのは本当にもったいないくらいのクオリティでしたね
小川氏 やれるのであれば、もっとたくさんの人に体感して頂きたいという思いはあります。しかし、これだけの規模となるとなかなか難しいです。イベント実施中は30人ほどのスタッフが動いています」
―― 2016年は、一般向けにVR製品が多数発売されますが、今回の“ザ・ビギニング”が移植されて遊べるなんてことは?
小川氏 弊社はゲームの会社ではなく、広告のクリエーションや動画、CM、Papperの言語エンジン、IoTプロトタイピング、先端技術を使った空間演出というようにクリエイティブの力を使って社会の課題を解決するというスタンスの会社です。今回も自社サービスを開発しようというわけではなく、日本IBMのビジョンを伝えるための最適解として提供させていただいたものとなります。自社サービスとしてゲームを作ろうということはありません。ただ、日本IBM様や他のブランドのソリューションになりうるのであれば検討することもあるでしょう
―― ありがとうございました
VRで体験した記憶が現実とごっちゃになりそうだ
ソードアート・オンライン ザ・ビギニングを体験してから数時間経過し、こうして原稿を書いている今、プレイ中の記憶を思いだそうとすると「さっき、自分はソードを振り回してモンスターと戦っていたなぁ。あれ、あれは現実だっけ? ゲームだっけ?」という不思議な感覚に襲われる。
実際に体験している時はVR HMDのフレーム部分が視界に入るため、ゴーグルからゲーム画面をのぞいている感覚が少しばかりある。しかし、記憶では不都合な部分がぼかされるのか、モンスターと戦っているリアルな主観視点のみが思い出されてくるのだ。こうなると、昔やった記憶が曖昧なVRゲームは本当にゲームだったのか、もしくは現実だったのか、あやふやになってしまう時が来そうで末恐ろしいと感じてしまう。VRの発展に期待を寄せて、これにて締めさせていただく。
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