特定業務向け端末の世界でWindowsを浸食しつつあるAndroid:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」
PC以外でWindows OSが強みを発揮しているのが、KIOSKやサイネージ、POSといった特定業務向け端末の世界だ。しかし、この市場でも変化が起きつつある。
PCの世界ではシェア9割以上、タブレットの世界では躍進中、しかしスマートフォンの世界ではAndroidとiOSの2勢力に押されて苦戦している……これがクライアントOSにおけるWindowsの現状だ。
特にPCではいまだ独占に近いシェアを獲得しているが、このWindowsがさらに強みを発揮し、多くの人々の目にとまる形で利用されている分野がある。それがKIOSKやサイネージ、POSといった特定業務向け端末の世界だ。今回はここで起きつつある変化について紹介したい。
組み込みOSの主流はWindows XPから10へ移行するか
かなり前になるが、2014年にWindows XPのサポートが終了した際、ATMやPOSなどでの同OSの稼働状況についてレポートしたことがある。
基本的にMicrosoftはこうした特定業務向けの端末には「Windows Embedded」などの組み込み向けOSの利用を推奨しているが、高額なライセンス料金などの問題もあり、通常のPC向けWindowsが転用されていることが多い。それにより、Windows XP Embeddedを使っていれば2016年1月まで有効だったサポート期間の終了を持つまでもなく、非サポート状態で稼働するシステムが少なからず存在していたと考えている。
一方、日本では多数の小売店でいまだにWindows XPベースの組み込み向けOSの端末が現役稼働していることが知られている。2007年以降に電子マネーが導入されたことを契機に、POSの更新が進んで以後そのまま稼働が続いている状態で、それらのサポート終了がやってくる今後1〜2年以内で一気に更新が進むとみられる。
なかなか新OSへの更新が進まなかった組み込み向けWindowsの世界でも波が来ている。アプリケーション検証などの問題から日本ではまだまだ旧OSの利用が続いているようだが、Microsoftは「Windows 10 IoT」をリリースしており、これまで用途向けに細分化されていた組み込み向けWindowsを統一管理していく方向性を示している。
小売業界向けのWindows 10 IoTの特徴は、Bluetoothプリンタや赤外線スキャナといった特定用途向けハードウェアのドライバを標準サポートしている点だ。今後システムが更新サイクルといわれる5〜7年間にわたって使われ続けることを考えれば、サポート期間が最長となるWindows 10 IoTがベストと言える。
実際、ニューヨークで2017年1月に全米小売業協会(NRF)主催で行われたイベントのRetail's Big Showでは、Windows 10搭載POSのデモストレーションが各社によって披露されていた。
さて、ここからが本題となる。
POS(KIOSKやサイネージも含む)の世界では圧倒的シェアを誇ると考えていたWindowsだが、最近になりこの分野でもAndroidが急伸しつつあるのだ。「mPOS(エムポス)」と呼ばれるスマートフォンやタブレットをPOSの代わりに利用する仕組みが典型だが、iPadをPOS化するソリューションを提供する米Squareのように、Windowsを必要としない仕組みが増えつつある。
また、米国や日本で開催される小売向け展示会ではWindowsを搭載したPOSしか見かけないが、アジアや欧州方面の展示会ではAndroid POSの展示が増えつつあり、その勢力を増やしつつある。
なぜWindowsではなくAndroidをPOSに使うのか
台湾で毎年開催されているイベントのCOMPUTEX TAIPEIをここ2年ほど見ていると、Android POSの展示が目に付くようになった。
台湾のPoslab Technologyの説明によれば、主に中国を中心にAndroid POSの需要が高まっているという。筆者はAndroid POSを使う理由として「組み込み向けWindowsの高額なライセンス費用負担を避けたいから」と考えていたが、先方の説明によれば「ライセンス料金の問題もあるが、それ以上にセキュリティが理由」との回答だった。
一般に、Windowsはセキュリティ的に堅牢であり、Microsoft自身もそれをセールスポイントとしている。一方でAndroidは対策が後手にまわっている傾向があり、これがサードパーティーによるセキュリティ対策ソリューションの活躍する余地につながっている。
しかしPoslabでは「Windows OSはブラックボックスであり、対策しようにも自分たちの手が及ばない。OSそのものに手を加えた製品の方が自信を持って提供できる」と考えている。Androidをベースにしているとはいえ同社のカスタム版OSであり、動作するハードウェアはIntelプロセッサベースのWindowsがそのまま動作可能なPCだ。
どちらが安全なのか最終的な判断を下すのは、実際に製品を導入するユーザー企業であり、同社としては「希望に応じてWindows版とAndroid版のどちらでも提供できる」というスタンスのようだ。
一般に、小売店向けのPOSソリューションは予約管理やレジ対応など用途に応じた複数のアプリケーションの他、基幹システムとの連携を行うための仕組みが含まれている。
Windowsの場合はこうしたアプリケーションや仕組みがノウハウを含めて多数存在しているが、Androidでも同様にストアアプリの形で拡張できる。カスタム版AndroidをPOSに利用するベンダーによっては、独自のアプリストアを構築してAPIを公開することで、機能拡張を実現しているケースもみられる。
こうした仕組みの先駆けはPoynt OSと呼ばれるカスタム版Androidを採用した小型POSを提供する米Poyntだと考えられる。同社の創業者兼CEOはもともとGoogleで「Google Wallet」事業を率いていたオサマ・ベディエ氏だ。
クレジットカード処理などを行う決済端末で大手の米Verifoneや仏Ingenicoなども同様のPOS一体型決済端末の提供を開始しており、やはりPoynt同様にカスタム版の独自Androidを搭載することで、専用のアプリストアを通して機能拡張が可能になっている。
Verifone Carbonは店員が操作するタッチパネルの他、ユーザー側に広告表示やPINコード入力を促すセカンドタッチパネルを搭載する。スタンドから取り外してタブレットのように持ち運ぶことも可能だ
Androidをベースにしたカスタム版OS構築のノウハウは急速に確立されつつあり、今後も提供ベンダーの数は増えてくると予想される。
組み込みの世界ではシステムの稼働期間が長い。現在はまだ旧システムがそのまま利用されているケースが多いと思われるが、今後数年先に更新タイミングがやってくる。あるいは、新規導入案件においてWindowsだけではなくAndroidが選択肢に入ってくるようになると、徐々にAndroidを利用する事例が増えてくるだろう。
急成長が見込まれる中国やアジアの他、中東や欧州、アフリカや南米など、Windowsが絶対的な地位を築いている場所以外では、Androidをベースに稼働するサイネージやKIOSKも増えてくると思われる。
欧州の展示会は地元だけでなく、ロシアや中東、アフリカなどからも多くの来場者が訪れるため、前述のように欧州方面でAndroidが目立ち始めたのも、こうした層をターゲットに出展しているのだと考えている。
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