クルマとケータイ、ドコモが目指す連携の形は:第1回 国際自動車通信技術展
国内の稼働台数8000万といわれるクルマは、携帯キャリアが通信機能の搭載を目指す大きな市場の1つだ。自動車業界での普及に向け、ドコモはどのようなシナリオを描いているのか。同社取締役常務執行役員の小森光修氏が説明した。
携帯電話サービスの前身となる「自動車電話」サービスが始まったのは、ちょうど30年前の1979年。それから6年後の1985年、移動電話は自動車を降りて独り立ちし、当時は誰も予想しなかったような進化を遂げて今に至っている。
国際自動車通信技術展の基調講演に立ったNTTドコモ 取締役常務執行役員 研究開発センター所長の小森光修氏は、市場環境と技術革新の面で大きな変革期を迎えた通信業界と自動車業界が、「30年前の原点に戻って結びつき、技術やノウハウ、エコシステムを生かすことで次の飛躍が望め、新たな世界が開けるのではないか」と述べ、自動車業界に積極的にコミットしていく姿勢を明らかにした。
広がる通信モジュールの用途、車載専用モジュールも登場
ドコモは2010年12月の商用化を目指してLTEサービスの開発を進めている。LTEは下り100Mbps、上り50Mbps以上の高速通信を可能にする次世代モバイル通信規格の1種。ドコモはすでに実証実験で下り約250Mbps、上り約50Mbpの伝送を成功させるなど開発は順調だ。
高速移動時で下り最大100Mbps、低速移動時で下り最大1Gbpsの高速通信の実現を目指す4Gについても、ドコモは既に実証実験を進めており、2006年12月には低速移動時での下り最大5Gbpsの信号伝送を成功させた。2007年に周波数の割り当てが決まって以来、標準化活動が本格化しているといい、3.9Gと同様、標準化には積極的に関わっていく方針だ。
このように通信速度が向上し続ける一方で、携帯電話市場はコンシューマー市場が飽和したことなどが要因となり、これまでのような右肩上がりの成長は望めなくなっている。新たな収益源が求められる中、通信キャリア各社が注力し始めているのが通信モジュール分野。「人には行き渡ってしまったが、これからマシンに付く可能性が膨大にある」(小森氏)というわけだ。
自動販売機や業務用ハンディターミナルは通信モジュールを搭載したものが増えており、業務効率化や人件費削減につながるとして、利用が一般的になりつつあると小森氏。通信モジュール自体も、遠隔監視やエアダウンロードによるソフトウェア更新に対応するなど進化しており、より幅広いシーンで利用できるようになってきたという。
2008年に発表した車載モジュールは、振動や衝撃、温度の変化などの過酷な条件下でも安定して使えるよう設計されたものだ。動作保証温度−30℃から70℃という高い耐久性を備えながら(一般的なモジュールの動作保証温度は15℃から35℃)、パケット通信に加えて音声通話やテレビ電話に対応。音声通話とパケット通信を同時に行うマルチアクセスに対応するので、通話しながら位置情報などの車両データを送信することも可能だ。さらにFOMAプラスエリアにも対応しており、山間部などでも安心して使えるという。
車載利用については、フォーミュラ・ニッポンへのサポートを通じて「300キロを超えるスピードと騒音環境下でも、高い品質で使える携帯を目指す」(小森氏)実験を行っており、それがらくらくホンのノイズキャンセル機能の向上や、高速移動時でも途切れることのない通信の実現などに役立っているという。
車載連携とケータイ連携でテレマティクス普及へ
クルマは国内で8000万台が稼働しているといわれ、その1台1台に通信機能が搭載されれば、大きな市場になる。ドコモもカーテレマティクス分野に注力する考えで、「Vehicle Mobile Convergence」をテーマに、ケータイやPCとクルマを連携させた先進的なサービスの創出を目指す。
普及のためのアプローチとして小森氏は、「車載連携」と「ケータイ連携」の両面から普及を促すと説明する。車載モジュールは高級車から搭載を進め、車両の遠隔診断やセキュリティなどのサービスを提供。普及クラスのクルマについては、携帯電話と接続して使うナビゲーションサービスや情報検索、カーオーディオなどを展開し、「上下から攻めて、将来は幅広くクルマに通信機能を搭載していきたい」(小森氏)という考えだ。
さらに、新たな価値創出の一環として、位置情報の統計データを“見える化”して、都市計画づくりに役立てることも検討していると小森氏。約5400万のユーザーが常時、ドコモの電話を持っており、例えば位置情報を統計的に処理することで、刻々と変わる人の流れや人口の推移を“見える化”できると説明する。「こうしたデータは、都市計画や輸送計画など、いろいろなところに応用できると考えている」(小森氏)。
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