ケータイカメラ、今後の進化の方向性は:ケータイカメラ進化論
ケータイカメラの進化の過程をたどりながら、新たな活用の可能性を探る本連載も今回が最終回。最近のケータイカメラのトレンドと、今後の進化の方向性について見ていこう。
ケータイカメラの機能は、デジタルカメラの進化を追いかけながら、ケータイならではの使いやすさや魅力を備えたものへと進化してきました(これまでの連載記事参照)。これからは、HDR(ハイダイナミックレンジ)やスローモーション、ペット検出など、最近のデジタルカメラでトレンドの機能が取り入れられていくでしょう。
一方、操作が簡単で便利に撮れるケータイカメラも、引き続き求められています。これは、カメラの高画素化に伴って撮影した画像の取り込みに時間がかかるようになり、ユーザーにとって“進化がケータイカメラを使いにくいものにしている”という現象が起こったことが影響しているのかもしれません。
こうした状況下で登場したiPhoneは、カメラにもインパクトがありました。画素数もカメラ性能も決して高くないのですが、操作性のよさは“便利さ、使いやすさの重要性”を再認識させてくれました。
実際、iPhone登場以降のケータイカメラは、撮影後に画像を処理するアプリケーションや、撮り貯めた写真を容易に検索できるフォトビュワーの搭載などにより、操作性が向上しています。例えば、2009年12月に発売された「N-02B」のカメラは1200万画素と高画素であるにも関わらず、カメラの起動がわずか0.8秒という瞬間起動を実現し、ユーザーのイライラを低減しています。今後も写真撮影や閲覧、検索を高速化する機能によって、ユーザビリティを向上させる取り組みがより推進されていくことでしょう。
撮った画像を探しやすくするアプローチも
最近の携帯電話は、外部メモリの容量が増えたことからより多くの写真を保存できるようになり、1人のユーザーがケータイカメラで所持している写真の枚数が1000枚を超えることもあるようです。これからはユーザーがケータイカメラで撮った写真をライフログのように貯めていき、その保存枚数が膨大な数になることが予想されます。こうなってくると、大量の写真からより簡単で的確に欲しい画像を探すための技術が、今後のトレンドの1つになると思います。
すでにPCの世界では、その技術の1つとして特定の人の写真のみを検索したり、自分の顔や友人の顔を探して分類するといった用途に対応するサービスが登場しています。Googleの「Picasa ウェブ アルバム」やAppleの「iPhoto」には顔照合技術が搭載され、写真を被写体ごとに検索できますし、Yahoo!はWebから類似画像を検索できる「VisualSeeker V2」という機能を公開しています。この機能はWeb上にある画像をキーワードで検索し、検索結果から選んだ画像によく似た画像をさまざまな方法で検索できるものです。
顔情報をベースに特定の人の写真を探したり分類する機能は、すでに一部の携帯電話にも搭載され始めており、今後、普及が進むとみられています。
ケータイカメラの特徴である“通信との融合”という観点から見ると、IT業界全般で進んでいるクラウド化も、今後は密接な関わりを持つようになると予想されます。増える一方の写真データなどを、サーバを含めてシームレスに預かるサービスが、今後は増えると思います。「すべてを記憶する」というコンセプトの「EVERNOTE」は、この一端だといえるでしょう。
また古くて新しいカメラ技術としては、今、話題の3Dがあります。映画「アバター」の大ヒットで注目を集め、テレビや映画などの表示デバイスが急速に3D化しています。携帯電話の表示デバイスも3D化の可能性があり、専用のメガネなしで3Dを観賞できるデバイスがすでに数社から発表されています。このような環境のもと、これからのケータイカメラはもちろん、デジタルカメラやビデオカメラなどでも3Dを撮影できる新技術が出てくるはずです。もちろんモルフォも3Dを重要視しており、いろいろと模索しているところですが、まだここで書ける段階ではないですね(笑)
サービスに目を向けると、AR(拡張現実)も今後のトレンドとして外せません。ARでは「セカイカメラ」が一世を風靡し、私も素晴らしいサービスだと思っていますが、実はまだそれほど画像処理を活用しているわけではなく、今後の技術の発展が期待されます。今後、ケータイカメラで撮影した被写体に画像処理を施し、ARの世界に投稿できるようになれば、今以上に必要な情報を簡単に取得できるようになり、よりサービスが面白くなると確信しています。
これまでケータイカメラの進化について、4回にわたって紹介してきました。今後のケータイカメラは、コミュニケーションの方法そのものを変える手段へと進化していくことでしょう。
携帯電話は音声の伝達からテキストベースのネットワークの世界へと進化してきました。今後、携帯キャリアがLTEを採用し、より高速なデータ通信ができる世界になっていくことを考えると、ネットワーク端末としての携帯電話はさらに重要な存在になると考えられます。
その時代の情報の伝達手段は、テキストではなく写真や動画になっているのではないでしょうか。あたかもメディアが新聞だけだった時代にテレビが登場して情報量が急増したのと同じように。テキストで詳細に表現してメールで送るよりも、ケータイカメラで撮った写真や動画を送る方が正確で早いはずです。そして写真や動画が一度に伝えられる情報はテキストよりも多く、人に訴えかける度合いも大きいものです。そのように考えると、カメラが携帯コミュニケーションの中心になることは自然なことだと思います。
モルフォは今後、このような分野で力を発揮していきたいと考えています。
モルフォ 平賀督基 プロフィール
株式会社モルフォ、代表取締役社長。1974年東京都生まれ。1997年に東京大学理学部情報科学科を卒業。2002年、東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻(博士課程) 修了。博士(理学)。
2004年5月、画像処理技術の研究開発や製品開発を行う株式会社モルフォを設立。2006年6月に静止画手ブレ補正ソフトウェアがNEC製携帯電話端末に搭載されたのを皮切りに発表する製品が次々とカメラ付き携帯電話に搭載され、現在では全11製品が携帯電話端末やサービスに採用されている。2008年に「Dream Gate Award」を、2009年に「Entrepreneur Of The Year Japan」の「Challenging Spirit」部門大賞を受賞。
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