孫社長の語るiPhone/iPad法人活用――「6000円のコストで4万3000円のコストダウン」
iPhoneやiPadを業務に使わないのは「大刀も小刀も持たず素手で戦場に行くようなもの」――ソフトバンクが開催した法人向けイベントで、孫正義社長がiPhone/iPadを導入したソフトバンクテレコムの事例を紹介した。コストの削減や営業社員の訪問件数の増加に影響したと孫氏は話す。
ソフトバンクが10月20日に開催した法人向けセミナー「SoftBank Days 2010 〜iPadが変えるワークスタイル〜」で、同社の孫正義社長がiPhone/iPadの業務活用に対する考えを語った。iPadの業務活用によりどのような効果が生まれるかを、グループ社内の導入事例を踏まえて説明した。
iPhoneとiPadを持たずにビジネスに臨むことは「武士に例えるなら、大刀も小刀も持たずに素手で戦場に行くようなもの」――開口一番、持ち前の口調でiPhoneやiPadの必要性を聴衆にアピールした孫氏。会場でのiPadの所有率がiPhoneより低いとみるや、「本当の良さは両方を使ってみて分かる」と訴える。iPhone/iPadとクラウドサービスを組み合わせることで、生産性向上やコスト削減が実現するというのが同氏の主張だ。
孫氏はiPhoneやiPadが登場したことで、ノートPCを持ち歩かなくなったという。稟議の承認といった出先での業務はすべてiPhoneやiPadで処理。こうしたワークスタイルは会社全体に広がっていると説明する。ソフトバンクは現在、2万台のiPadをグループ通信3社(モバイル、BB、テレコム)の社員に配布し、日々の業務に活用している。孫氏はいち早くiPhone/iPadを導入したソフトバンクテレコムの成果を例に、iPhone、iPad、さらにシンクライアントをクラウドサービスでシームレスに連携させた同社のワークスタイルを紹介した。
iPhone/iPadとクラウドサービスで作る無駄のないワークスタイル
iPhone/iPadにおける導入効果の1つは、会社の外にいる時間を有効活用できることだ。ソフトバンクテレコムの営業社員は、社内では据え置きのシンクライアントで業務を行っている。作業の途中でアポイントの時間が来た場合は作業内容をクラウドを介してiPadに移し、移動中の時間を使って業務を続ける。メールやスケジュールの管理といった業務も、iPhoneやiPadを使って出先でリアルタイムに管理し、素早い顧客対応ができるという。また、iPadから会社のWindows環境にアクセスし、急な資料の修正などを外出先から行うことも可能だ。もちろん、帰宅後でもiPadを介して業務を行える。
こうしたiPhoneやiPadの活用によって、同社では営業社員の残業が1人あたり1日平均32分削減されたという。孫氏の説明では、通勤時間や自宅での作業がどのように計上されているかは分からなかったが、1人あたり月3万3000円の残業代が削減できたと同氏は主張する。
日本では、情報セキュリティの観点からノートPCの持ち出しを禁止する企業が少なくない。そのため、「朝9時に出社し、最初の30分〜1時間でメールの返信するのが日本の多くの企業の風景」となっているが、「欧米ではBlackBerryを使い、移動中にメールの返信を終わらせている」と孫氏は説明。「日本のビジネスマンは仕事のスタートからつまずいている」と指摘する。
とはいえ、ノートPCがiPadに置き換わっても企業には紛失による情報漏洩のリスクがつきまとう。これに対し孫氏は、iPadやiPhoneが3Gネットワークを介してデータをリモートワイプできることや、クラウドを活用してローカルにデータを持たない使い方ができることを紹介した。こうした方法ならば、ノートPCよりもセキュアに運用できると孫氏は話す。
ペーパーレス化でコスト削減 営業も後押し
iPadでペーパーレス化を図ったことでコスト削減につながったことも紹介された。iPadに資料を表示することで、会議などでの紙の資料をなくし、紙代と印刷代を合わせて1人あたり月1万円のコストダウンができたという。年間で5億7000万円にも及んでいた紙のコストは、1億2000万円にまで削減できたと孫氏は話す。「廊下の電気を消すなどの努力もいいが、効果は微々たるもの。もっと大きなコスト削減に目を向けるべき」(孫氏)
“PCとケータイ”という従来の業務体系から“シンクライアント/iPhone/iPad”という新しいワークスタイルに移行したことで、ランニングコスト自体は9000円から1万5000円に増えている。しかし、印刷資料や残業代の削減により、4万3000円のコストダウンが図れたことを孫氏は強調。「6000円のコストで4万3000円のコストダウンが買えた」と話す。
また、営業社員の訪問件数が、iPhone導入後である2009年10月から2010年5月までの間で3倍になったことを孫氏は紹介。作業のために社内に縛り付けられることなく、モバイル環境で業務をこなすワークスタイルが、これを後押ししているとした。「残業コストを減らしながら、訪問件数は3倍にできた。訪問件数はバッターにとっての打席であり、打席に立たなければヒットは打てない」(孫氏)
効率的に社員を打席に送り込むだけでなく、iPadに関しては「打率」を上げることにも役立つというのが孫氏の弁。プレゼンテーションをiPadで行い、動画やアニメーションを盛り込むことで、差別化が図れるという。
また、iPhoneやiPadがプライベートで活躍することもアピールした。iPhoneに7000枚以上の個人的な写真をため込んでいるという孫氏は、「『会社で買ったものを個人利用するな』という意見があるが、バカじゃないかと思う」と言い切る。個人利用で端末に慣れ親しんでこそ、業務でも使いこなせるという考えだ。「手足のように刀や鉄砲を使いこなす侍と、仕事の時だけもぞもぞと使う侍とでは、勝ち具合が違う」(孫氏)。個人利用を認めることで、社員と会社との間でWin-Winの関係が築けるという。
iPhoneとiPadのどちらかしか持っていない人には「ビジネスマンとして、自分を思い直したほうがいい」、どちらも持っていない人には「人間として大丈夫かを振り返っていただきたい」と、相変わらずの“孫正義節”で聴衆に語りかけた同氏。Android端末やWindows phoneといったスマートフォンやタブレットが今後増えることに触れつつも、「(iPhone/iPadとは)切れ味が違う、似て非なるもの」と一蹴する。
しかし、KDDIが「Android au」を打ち出すなど、他キャリアのAndroid事業はにわかに加速しており、端末ラインアップの充実に伴い法人向けソリューションも増加するはずだ。ソフトバンク自身も、Android 2.2を搭載した「HTC Desire HD」を11月以降に発売するなど、Androidの進化をキャッチアップしている。モバイル端末の業務活用においては、こうした流れも注意深く見ながら決断を下す必要があるだろう。
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