加藤新社長就任でドコモはどう変わるのか:神尾寿のMobile+Views
NTTドコモが5月11日、夏からの新経営体制を発表した。社長、副社長が全員交代となる大規模な人事異動で、山田隆持社長が牽引してきたドコモは、加藤薫新社長の下でどう変わっていくのか。記者会見からひもとく。
スピード経営で「アライアンス事業」と「M&A」が増大する
「もっとも重視している指標は『スピード』です」
質疑応答の席上で、NTTドコモの新社長に就任予定の加藤薫氏は明確にそう答えた。スピード。これはそのまま新たなドコモを象徴するキーワードとなり、達成すべき課題となるだろう。
振り返ってみれば、これまでのドコモはよくも悪くも“堅実で地に足のついた経営”を基本としていた。基礎研究からサービス開発、インフラ投資、端末調達までドコモ自身が強くコミットし、時間とコストをかけて積み上げることを是としてきた。
しかし、ドコモを取り巻く経営環境は大きく変わっている。スマートフォンやタブレットなど、スマートデバイスの登場と普及でインターネットとの垣根はなくなり、グローバルビジネスとの連携性が高まった。好むと好まざるとに関わらず、経営に求められるスピード感も、グローバルなIT産業のそれに合わせる必要が出てきたのだ。
国内における競合他社のスピード感も変わっている。もともと“インターネットカンパニー”を旨とするソフトバンクの経営スピードが速いのはもちろんのこと、最大のライバルであるKDDIも、2010年に現在の田中孝司氏の社長就任を機に、徹底したスピード経営に切り替わっている。加藤氏が今回、スピード経営を旗印に新社長に就任した背景に、それらがあるのは間違いない。
では、加藤新体制のドコモはどのように変化するのか。
そのヒントは、記者会見で加藤氏が話した自戒の言葉にある。
「七分で良しとせよ。(私は)“完璧を求めるあまり、時間の概念がなくなること”を戒めようと思っています。サービスはお客様に育てていただく。失敗だったらすぐにやりなおせばいい。そういう感覚も必要です」(加藤氏)
この方針によって、今後のドコモの端末調達やサービス開発の舵取りは、より迅速かつ経済合理性を重視した形に変わっていくだろう。さらに新たな事業領域を中心に、異業種他社とのジョイントベンチャー設立など、既存事業者のリソースを活用するアライアンス事業や、国内外における積極的なM&A(合併・買収)が活発化するだろう。ドコモはこれまで他社との提携や出資・M&Aを中長期的な投資とする傾向が強かったが、今後はそれらによって「時間を買う」姿勢に大きく変わることになるだろう。
むろん、こうした経営姿勢の変化を社内に徹底させるには時間がかかる。一部では混乱が伴うこともあるだろう。実際、KDDIの例で見れば、新社長になった田中氏がまず腐心したのが、社員のマインドチェンジだった。田中氏はこれを2010年12月の社長就任から約3カ月かけて徹底的に行い、2011年をかけて大きく舵を切りなおした。加藤氏にとっても「経営スピードの高速化を社内に浸透させる」ことが、就任当初の重要なミッションになる。
加藤新社長による新生ドコモが、どれだけ経営スピードを上げられるか。そして、いつ、その効果を市場で発揮できるようになるのか。期待をもって見守りたい。
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