誰でも“しなやかな運転”になるクルマ――「これ、何か違う」から生まれたi-DMマツダアクセラ開発者に聞く(1/4 ページ)

» 2011年12月27日 10時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

 2011年9月のマイナーチェンジで、大幅な進化を遂げた「マツダ アクセラ」。2リッターの新型ガソリンエンジン「SKYACTIV-G」【※1】に加え、新アクセラでは新型AT「SKYACTIV-DRIVE」も採用した。これにより、燃費性能とドライブフィールのさらなる向上を果たしたという。

【※1】2011年6月30日にマイナーチェンジした「デミオ」にはすでに1.3リッター版SKYACTIV-Gが搭載されている

 また、「インテリジェント・ドライブ・マスター」(i-DM)という独自の運転評価システムの搭載も大きな特徴だ。これは一見すると、他社のエコランプと似ているが、実はまったく異なる。エコドライブはなるべくアクセルを踏まないことが原則だが、i-DMは状況に応じてドライバーにアクセルをもっと踏めと促すことさえあるという。

 SKYACTIV TECHNOLOGYやi-DM――マツダは近年の自動車業界における「エコ一辺倒」の風潮とは一線を画しているように見える。これらの新技術を投入した意図はどこにあるのか。そして同社のクルマ作りに対するビジョンとは何か。

 プログラム開発推進本部でアクセラの担当主査を務め、今回のマイナーチェンジでも開発の陣頭指揮を執った猿渡健一郎さんに、じっくり話を聞いた。

mazda 新型アクセラの陣頭指揮を執った猿渡健一郎さん

「走る歓び」にエコが加わった「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」

──エコカーブーム真っ盛りですが、そんな中マツダはエコを標榜しつつも、他メーカーとは明らかに異なる独自のスタンスを取られているように見えます

mazda サステイナブル“Zoom-Zoom”のイメージ図(出典:マツダ)

猿渡さん ご存じのとおり、マツダでは2002年から「走る歓び」「Zoom-Zoom」というコンセプトを打ち出してきました。しかし、世界的な環境意識の高まりや、それに伴うクルマへの価値観の変化を受けて、われわれとしても新しいコンセプトを持つべきだと考えました。

 そこで2007年に発表したのが、地球環境と共存しつつ持続可能なクルマ社会を実現するためのコンセプト「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」です。ここで、環境や安全性に配慮するための技術を、今後段階的に導入していくことを宣言しました。SKYACTIV TECHNOLOGYは、その第一段階の技術の総称という位置付けになります。

 しかし、マツダのクルマ作りにとって、エコに関する技術は枝葉の部分であって、幹の部分はあくまでも「走る歓び」です。決してエコ一辺倒というわけではありません。走る歓びの幹を大きく育てていきながら、同時にそれに見合った大きさと形の枝葉も一緒に育てていきましょうというのが基本的な考え方です。

──ハイブリッドカー(HV)と電気自動車(EV)に並んで、クルマそのものの環境性能を上げた「第三のエコカー」というキーワード。これは、マツダが先鞭を付けたものですね

猿渡さん 個人的には、「エコカー」という言葉はあまり好きではないのです(笑)。しかし、同じエコカーでも、お客さまにいろんな選択肢が提供されるのは、非常に望ましいことだと思います。

 また、アイドリングストップ機構「i-stop」がそうだったのですが、われわれが新技術を市場に投入することで、他メーカーが負けじと追随してきて、結果として市場全体が活性化されるのは、エンジニアにとって喜びでもあるのです。

──他社がHVやEVによる燃費向上を志向する中、マツダのSKYACTIVエンジンは内燃機関のブラッシュアップという独自の方向性で低燃費を実現しました

mazda ビルディングブロック戦略のイメージ図 ※家庭用電源で電池を充電できるハイブリッド車(出典:マツダ)

猿渡さん サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言では、ビルディングブロック戦略【※2】として段階的に技術を積み上げていくロードマップを描いています。その最も土台となるブロックが、SKYACTIV TECHNOLOGYによる既存技術のブラッシュアップです。一度積み上げたブロックは、後から丸ごと入れ替えるのは困難ですから、まずは土台となる技術をしっかり磨き上げることが先決だと考えています。

【※2】ビルディングブロック戦略:クルマの基本性能や軽量化を突き詰める次世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」をベースとして、その上に“ステップ1”としてアイドリングストップ機構「i-stop」、“ステップ2”として減速エネルギー回生システム「i-ELOOP」、“ステップ3”として「モーター駆動技術」を積み重ねていくマツダのクルマ作りのビジョン

 あまり知られていないことですが、SKYACTIV TECHNOLOGY投入以前の2001年から2008年までの間に、国内で販売したマツダ車の平均燃費は約30%も向上しています。われわれはこれを2015年までに、今度は世界中で販売する新車を対象に、さらに30%向上させるという大きな目標を立てています。

 そのためには、一部の車種だけに特別なエコ機能を搭載しても達成できません。すべての車種に適用できる技術が必要です。となれば、おのずとベーシックな技術のブラッシュアップが必要になってくるわけです。

 2015年までにこれを達成した後、さらにその上に電気デバイス技術などを使った新たなブロックを積み上げていくことになります。その具体的な方針については、今まさに社内で検討しているところです。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.