誰でも“しなやかな運転”になるクルマ――「これ、何か違う」から生まれたi-DMマツダアクセラ開発者に聞く(2/4 ページ)

» 2011年12月27日 10時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

さまざまなAT技術のいいとこ取りを目指した「SKYACTIV-DRIVE」

──今回、新たに搭載されたATミッション「SKYACTIV-DRIVE」も、既存技術のブラッシュアップの結果出来上がったものなのでしょうか?

mazda SKYACTIV-DRIVE(出典:マツダ)

猿渡さん むしろ、現在あるさまざまな方式のAT技術の「いいとこ取り」を目指したものだと理解していただければいいかと思います。ATには、オーソドックスなトルコン(トルクコンバーター)式ステップAT、CVT方式、デュアルクラッチ方式などがあります。そしてこれらは、世界各国の市場ニーズによって向き・不向きがあります。

 例えば、日本の交通環境では車速が低いので、常にエンジンの最も燃費のいい領域を使って走ることができるCVTがマッチします。しかしCVTは、欧州のように車速が速い環境ではプーリー【※3】の油圧制御に負荷が掛かるため、あまり適していません。そのため欧州では、高速域でのダイレクト感を重視したデュアルクラッチ方式が好まれます。

【※3】プーリー:CVTでは金属製ベルトを2つの滑車(プーリー)でつないで駆動力を変化させる

 逆に微低速領域ではデュアルクラッチ方式はギクシャク感がどうしても出てしまうため、日本や米国ではあまり好まれません。ちなみに米国では依然として、トラディショナルなステップATが好まれています。これら異なるAT方式のいいところを、1つのミッションですべて実現できないかと考えて開発したのが、SKYACTIV-DRIVEです。

──結果的には、オーソドックスなトルコン式ステップATがベースになっていますね

猿渡さん マツダのクルマ作りでは、ドライバーの操作に対する「リニア感」を非常に重視しています。その点、CVTはドライバーのアクセル操作に対するリニア感に欠ける面があるため、SKYACTIV-DRIVEが求めるものとは違います。

 となると、ステップATとデュアルクラッチのどちらかということになるのですが、トルコンのトルク増幅効果がもたらす発進時のなめらかさやトルク感は、やはり実用上大きなメリットになります。

 一方、エンジンの回転が上がっていったときにトルコンがスリップして、ダイレクト感に欠けるところがステップATの欠点なのですが、これはロックアップ領域を広げることで克服できます。というわけで、ステップATをベースに、ロックアップ領域を広げる【※4】という方向性で開発を進めることになりました。

【※4】ロックアップ:トルコン式ATは流体を用いて駆動力を伝えているが、エンジンの動力を機械的に直結してロスを減らすことをロックアップという。SKYACTIV-DRIVEでは、従来49%だったロックアップ領域を82%まで拡大した

──一般的には、ロックアップ領域を広げると振動や変速ショックが大きくなったり、トルク増幅効果が小さくなったりすると言われていますが

猿渡さん 確かに、トランスミッション単体だけで考えると、これらの点でどうしても限界にぶつかってしまいます。しかし、エンジンやボディとのパッケージ、つまりクルマ全体で考えれば、そうしたネガティブな点を補うことができます。

 例えば、CVTのようにエンジンの燃費のいいエリアをピンポイントで使えないのであれば、エンジン側で燃費のいいエリアを広げてやればいい。ロックアップ領域を広げた結果、トルク増幅が効く領域が狭くなるのであれば、エンジン側で低回転時のトルクを出せばいい。振動や変速ショックが出るのであれば、ボディ側でその振動を逃してやればいい。このように、クルマ全体からの視点でソリューションを考えていくというのが、SKYACTIV TECHNOLOGYの基本的な考え方なのです。

mazda 新型アクセラ

──SKYACTIVエンジンがあってこその、SKYACTIV-DRIVEというわけですね。ちなみにボディの技術に関しては、「SKYACTIV-BODY」「SKYACTIV-CHASSIS」が次期CX-5から採用される予定になっています。しかしそれを待たずとも、新アクセラのボディはかなり剛性が上がっていると聞いています

猿渡さん そのとおりです。われわれは、2010年に発売した新型プレマシー以来、ドライビング操作の「統一感」というものを重視したクルマ作りを行っています。統一感とはつまり、走る・曲がる・止まるがきれいにつながった操作感のことを意味していますが、これを実現するにはボディの剛性をしっかり確保して、足回りをなるべく自由に動かしてやる必要があるのです。

 そこで、今回のアクセラのマイナーチェンジでは、ボディ剛性の強化も行いました。そのベースになっているのは、「マツダスピード」バージョンのアクセラです。マツダスピードアクセラでは、ハイパワーエンジンに合わせて、マイナーチェンジ前のアクセラのボディに大幅な剛性アップを施しているのですが、新アクセラではこのボディ技術を流用した上で、さらに細かな部分で補強を加えています。これによりサスペンションの動きの自由度が上がり、特に後輪の動きがよくなりました。

 これに加えて、ステアリングの操舵感覚も徹底的にこだわってチューニングし、より自然でリニアな操作性を実現しました。結果としてコーナリングの感覚は、マイナーチェンジ前のアクセラのようなクイックな挙動ではなく、Gの急激な変化を抑えながら曲がっていくニュートラルなハンドリングに仕上がっています。

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