誰でも“しなやかな運転”になるクルマ――「これ、何か違う」から生まれたi-DMマツダアクセラ開発者に聞く(3/4 ページ)

» 2011年12月27日 10時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]

「しなやかな運転」のスキルを判定してくれるi-DM

──i-DMは、そうした操作の「統一感」を、ドライバーに体感してもらうための仕掛けだと言えそうですね

mazda

猿渡さん そのとおりです。実は、i-DMのアイデアを思い立ったきっかけは、2009年にアクセラに初めて搭載したエコランプ機能でした。エコランプは基本的には、アクセルをなるべく踏まない運転を良しとするものですよね。でも実際には、上り坂でアクセルを踏み込んだらどうしてもエコランプは消えちゃいますし、高速道路では時速70キロをキープしないとやっぱり消えてしまいます。

 「これ、何か違うよね……」と、当時から開発陣の間では話していました。走行シーンが異なれば、適切な走り方もそれぞれ変わってきますから、一律にアクセル開度だけで運転を判断するのはちょっと違うのではないかと。

 そこで思い付いたのが、運転が上手いドライバーの走らせ方を解析して、それをモデルとした仕掛けが作れないかということでした。調べてみると、マツダ車の評価を行うドライバーの中で最も運転が上手いSランクのドライバーが運転すると、Gがスムーズに発生して統一感のある操作になった。

 このSランクの運転方法を、何らかの形でドライバーに提示できないかと思い、いろいろと試行錯誤を繰り返した末にたどり着いたのが、「バネ・マスモデル」でした。

──バネ・マスモデルとは、一体どのようなものなのでしょうか?

猿渡さん バネ・マスモデルは、バネの上に重りを載せたモデルを使って、クルマの挙動を評価するものです。たとえるなら、人間の頭がマス、首がバネだと思ってください。

 ドライバーがアクセルやブレーキ、ハンドルを操作すると、前後Gや左右Gが発生しますが、上手いドライバーがよく出来たクルマを運転すると、バネがすーっと一定方向に伸びた後、重りの位置がピタリと止まるのです。

 ところが下手なドライバーが乱暴な運転をすると、Gの発生に統一感がなく、不規則になりますから、重りは大きく前後左右に揺れてしまいます。このモデルを使った運転の優劣の判定を、何らかの形で表現できないかと考えて考案したのがi-DMだったわけです。

 i-DMには、エコな運転をするとグリーンのランプが点灯するエコランプ機能も付いていますが、バネ・マスモデルを基にした統一感のある運転、これができるとブルーのランプが点灯してドライバーに知らせます。マツダではこれを「しなやかな運転」と表現していますが、さらには、どの程度しなやかな運転ができたかを、5点満点で採点する機能も付いています。

mazdamazda i-DM(intelligent Drive Master)

──そのような仕掛けは、ゲーム感覚で非常に面白いですね

猿渡さん 点数が上がっていくと、次のステージに上がっていく仕掛けを用意しました。さらに、ゲームと同じように「裏モード」も用意しています。これはSランクのドライバーでも高得点を出すのは難しいですよ。

 i-DMには多くの反響が寄せられて、ブログでi-DMの点数を上げていく過程を書いている人、i-DMの紹介動画を独自に制作してニコニコ動画で公開している人もいます。この動画は本当に良くできていて、マツダの技術者も「i-DMのことをよく理解しているなあ」と感心しながら見ています。

 このようにネット経由でお客さまからいただくフィードバックの中からは、われわれが当初想定していなかったようなi-DMの効用に気付かされることもあります。例えば、i-DMでいい点数を出すためには、急ブレーキは厳禁です。おのずと交通状況や信号の変化を先読みしたり、車間距離をきちんと取るようになったりしたというのです。

 また、カーブの立ち上がりではきちんとアクセルを踏んで加速しないといい点数が出ないのですが、i-DMの点数を意識するようになってから、初めてきちんとアクセルを踏み込めるようになったという声もありました。こうした副次的な効果は、お客さまからのフィードバックによって初めて気付かされたことです。

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