上昇中の機内で耳がキーンと痛くなるのは、どうして?秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(1/4 ページ)

» 2012年01月05日 10時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

 ロンドン行きのANA201便は先ほど水平飛行に移り、順調にフライトを続けている。その機内で、隣にいる同行者はまたいくつかの質問を私にぶつけてきた。最初の質問は、上昇中にどうして耳がキーンと痛くなるのか? それを含め、今回も4つの疑問に答えていきたい。

上昇中に耳が痛くなる理由は?

 旅客機が離陸して上昇すると、耳がキーンと痛くなることがある。原因は、急激な気圧の変化だ。地上(高度0メートル)での強さを1気圧とする大気の圧力は、旅客機が高度を上げていくにしたがって0.9気圧、0.8気圧と低下。高度1万メートルの上空では0.26気圧──地上のほぼ4分の1程度になるが、人間の身体はこうした気圧の変化に順応できない。

 私たちの身体は地上では1気圧の力がかかっているが、反対に身体の内側からも1気圧で押し返す力が働き、外側と内側でちょうど“つり合い”の取れた状態になっている。機内の気圧はコントロール(与圧)されているものの、機体の構造上の関係で1気圧までは上げることはできない。地上と同じ1気圧に機内を保とうとすると、ボディに巨大な力が加わり、その力に耐えられるようにボディをつくれば重量が増して飛ばすことすら不可能になるからだ。

 そこで従来の旅客機では、高度1万メートルの上空で機内の気圧は高度2400メートル程度(0.8気圧)に保っていた。そのため旅客機が上昇して機内の気圧が少しずつ低下すると、1気圧のままの身体の中では内側の空気が外に逃げようとし、とくに敏感な器官である耳の鼓膜が振動して耳が痛くなるのだ。

飛行機と空と旅 離陸して上昇すると、機内の気圧も徐々に低下(撮影:チャーリィ古庄)

 しかし、ここまではすべて過去の旅客機の話。2011年11月からANAが運航を始めたボーイングの次世代機787は、ボディの材料に新しい素材を採用したことでこのやっかいな問題も解消した。

 従来のアルミ合金に代わって機体の約50%に採用したカーボンファイバー複合材は、軽量かつ非常に強度に優れ、上空を巡航飛行中の機内高度を約1800メートルと低く(地上に近く)設定できるようになった。高度1800メートル程度の環境であれば、ほとんどの人は気圧差を感じることはない。

 もちろん、従来の旅客機の数値──巡航中の機内高度が約2400メートル程度というのは、乗客乗員の健康面に重大な影響をおよぼすレベルでは決してない。しかし上昇中に耳がキーンとすることで多少の不快感は覚えるし、自分で“耳抜き”ができない幼児が機内で泣き叫んでいる光景などにもときどき出会った。“ドリームライナー”の愛称をもつ787は、そんな不快感からも確実に乗客を解放しつつある。

飛行機と空と旅 ANAが運航を開始した787なら、空の旅もより快適に
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