今回のフライトで私たちは運よく、非常口前のシートを確保することができた。ドアの前のシートは足もとが広くて、とても快適だ。ところで、同行者は先ほど、このドアについても私に質問してきた。「離陸する前に客室乗務員がなんだかドアをガチャガチャ操作していましたよね。あれは何をしていたのですか?」と。
これは空港に到着時の機内でも見られる光景だ。搭乗便がターミナルのスポットに誘導され、ボーディングブリッジが接続されると、機内に業務連絡のアナウンスが流れる──「客室乗務員はドアモードを変更してください」。すると乗務員は、キャビンのドアに向かってある操作を開始する。
乗客を降ろすためにドアのロックを外している、と思っている人も多いようだが、そうではない。空港でのドアの開閉は通常、機外にいる地上スタッフの役割で、ドアは外側から操作するようにできている。乗務員が内側から自分たちでドアを開けることも可能だが、ドアを内側から開ける場合というのは、じつは何らかの“緊急事態”にほかならない。
旅客機のキャビンのドアには、内側に緊急脱出用のスライドシュートが収納されている。客室乗務員たちは、ドアに取り付けられたその緊急脱出装置の自動モードを解除するという重要な任務を遂行しているのである。
緊急時に内側からドアを開けると、スライドシュートに自動的にガスが充填され、ドアから地上や海に向かって下りていく仕組みになっている。ドアを開けてからスライドシュートが自動セットされるまでに要する時間は、わずか10秒ほどだ。そんなものが空港で乗客が乗り降りする通常の状態で作動してしまったら、大変なことに。そこで旅客機が空港に降りているときは、ドアモードの「ディスアームド・ポジション」への変更──つまり緊急脱出装置の作動を解除する作業が必要になる。
その便が次の目的地に向かうため、準備を整えてすべての乗客の搭乗が終了すると、機内には同じ「ドアモードを変更してください」というアナウンスが再び流れる。すると客室乗務員は、今度は先ほどの作業とは反対に、緊急脱出装置が自動で作動する「アームド・ポジション」に変更。出発時と到着時には、そうした乗務員の手作業による操作が繰り返されるのである。
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