機内ではもう間もなく食事のサービスが始まるだろう。同行者は「その前に」と言って、トイレに立った。最後に、この旅客機のトイレのしくみについても解説しておこう。
旅客機に設置されているトイレの種類には、大きく分けて2のタイプがある。1つは「循環式」という、ちょっと古いタイプのもの。循環式はトイレのすぐ下に汚物をためるタンクがあり、タンク内の水を循環させることでトイレを洗浄していることからこの名前がついた。
しかし循環式では限られた水を繰り返し利用するので、そのつど水は殺菌・浄化されるものの、使用頻度が高くなるほど水も汚れていくという欠点があった。そこで考えられたのが、もう1つの「バキューム式」と呼ばれる新しいタイプである。バキューム式トイレには、機体の後方に「ウェストタンク」と呼ばれる集中タンクを装備。キャビンの数カ所に配置さているトイレの汚物を、パイプを通してまとめて1カ所に集めるというのが特徴だ。では、キャビンの各所にあるトイレの汚物を、どのようにして後方のウェストタンクに集めるのか?
循環式と同じように水だけを使って流していたのでは、トイレとタンクの距離が離れているぶん、より大量の水が必要になってしまう。そこで考えられたのが、機内と機外の気圧の差を利用する方法だった。
地上では機内も機外も同じ1気圧だが、高度1万メートルの上空では、機外の気圧は機内に比べてぐっと低下する。ここでポイントになるのが「空気は気圧が高いほうから低いほうへ流れる」という性質だ。バキューム式トイレでは、トイレとタンクをつないでいるパイプが機外に通じている。フライト中、トイレを使用したあとで「洗浄」のボタンを押すと、流れてくる水は少量でもかなりの勢いで汚物が吸い込まれていくのを不思議に思った人も多いだろう。これはパイプを遮断しているバルブが機外に向かって開き、パイプ内の気圧が一気に低下するため。つまり機体に穴があいたのと同じ状態になって、汚物がタンク方向に吸い出されていくのだ。このとき、空気は機外に逃がされ、汚物だけがタンクに集められる。
バキューム式はタンクが後方の1カ所にあればいいので、循環式に比べて機内レイアウトの自由度が増すというメリットもある。タンクが1カ所だと処理も簡単なため、新しい旅客機にはほぼすべてバキューム式が採用されるようになった。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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