新型旅客機が誕生するまで──その開発・製造プロセスを追う:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/4 ページ)
新しい旅客機が完成するまでに、いったい何年かかるのか? よくそんな質問を受けることがある。そこで今回は、新機種の開発プランが持ち上がってから、設計・製造を経て市場に送り出されるまでの具体的なプロセスを追ってみた。
開発プランは1990年代初めに浮上
さて、そろそろ最初の質問に戻ろう。新型旅客機の開発プランが浮上し、実際に完成するまでにはいったい何年かかるのか?
すでにラインアップにある既存の機種を新たに受注した場合の製造期間であれば、ある程度のパターン化はできる。しかし、これがまったく新しい機種となると話は別だ。新型機の開発・製造過程では一般論では語れない不確定要素や時代背景、予期せぬ計画の変更などが入り込んでくる。そこで、現在最も新しい機種としてエアバスA380を例に考えてみよう。
エアバスが綿密なマーケット分析を行った結果、21世紀にはそれまで最大だった“ジャンボ機”ボーイング747-400に代わる超大型機が必要になるとの確信を得てその作業を本格化させたのは、1990年代の初めだった。747-400の1.5〜2倍の収容力を有しながら、747-400と同等の航続距離性能をもつ──そんな大型機の開発計画について具体的な検討が始まったのが1992年。社員たちからも、機体の形状などについてさまざまなアイデアとプランが出される。超大型機といえども、現在ある世界の空港施設に適合させなければ実際に飛ばすことはできない。エンジニアやスタッフたちの知恵を結集して詳細を詰めた結果、全長と全幅をそれぞれ80メートル以内に収めるのがベストという意見でまとまり、史上初の「オール2階建て」にするという機体の青写真が描き上げられた。
15年以上を費やして完成したA380
エアバスは1996年3月に社内に新たに大型機部門を設立。新型機の開発構想は数度にわたる細部の見直しが行なわれ、より実用的かつ魅力ある機体にまとめ上げられていく。そして1999年12月19日、エアライン各社に対するPR活動をスタートし、そこで新型機を発注する考えがあることを最初に伝えてきたのがエミレーツ航空とシンガポール航空の2社だった。
エアバスの超大型機A380は、こうして開発がスタートした。世界の拠点や協力メーカーの工場で主要構成パーツなどの製造が進み、2004年6月には最初の2機の組み立てをトゥールーズ工場で開始。A380の初号機がロールアウト(完成披露)式典とともに初めて私たちに公開されたのは、2005年1月18日だ。
その後、前述したような過酷なテスト飛行が繰り返され、2006年12月にEASAとFAAから型式証明を取得。2007年に入って、シンガポール航空へ納入する1号機のキャビン設置作業や、同エアラインのロゴを入れる機体の塗装作業などが進む。そうして2007年10月15日、ついに第1号機がシンガポール航空に納入された。最初に開発計画が浮上したときから完成・納入までには、じつに15年以上の歳月を費やしているのである。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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