東日本大震災の被害映像は必要だったのか?――『ヒミズ』:あの映画ざっくりレビュー
1月14日公開の映画『ヒミズ』。津波被害の映像は強く生々しく胸にせまるが、その感覚と住田の絶望はシンクロしないのだ。
『ヒミズ』はざっくりいうと、あらゆることに絶望している中学生、住田くんが普通に立派な大人になりたいと夢見るんだけど、うまくいかないばかりか状況は悪くなる一方で、住田くんを好きな茶沢さんの想いは届くのか? っていう話。
主演2人の演技は文句なく、ベネチアで受賞したのもうなずける。住田の絶望感を反映してか、全体的に閉塞感に満ちていて、重々しいながらも見ごたえ十分、ボケた脳みそにガツンとくる映画。
しかしながら、「3.11」被災地の映像が挿入されることには違和感を抱く。津波被害の映像は強く生々しく胸にせまるが、その感覚と住田の絶望はシンクロしないのだ。
住田の父は酔うたびに「お前がいらないんだよ、死んでくれよ」と住田にせまる。「お前にいくらかかったと思ってるんだ」ということもある。住田の父は望まずにできた子供について経済的損失としか考えていない。住田の絶望は「存在を承認されないこと」に根ざしたものだ。それは、「3.11」で被災することとは、種類の違う絶望である。
製作中に大震災が起こり、急きょ震災後の設定にしたことが『ヒミズ』という作品にとって良かったのかどうかは微妙だが、「3.11」が表現者にとっていかに無視しがたく、冷静でいられなくなるほどのインパクトがあったか、ということはよく分かる。園監督の次回作は直球で「3.11」を扱ったものになるそうで、大いに期待したい。
あらすじ
15歳の住田祐一は、中学を卒業したら母の貸しボート屋をついで平凡に暮らすことを夢見ている。しかし、父が蒸発した住田の家庭は普通とは言いがたく、そのせいかどこかさめていて大人びた雰囲気の住田に茶沢景子は惹かれ、ストーカーのようにつきまとう。ボート小屋の周辺に住んでいるホームレスたちも住田を慕っているが、住田はその誰とも深く関わるつもりはなく、放っておいてほしいと思っている。
ある日、借金を抱えて住田の父が帰ってくる。金を無心する父親からひたすら殴られる住田少年。母親は「がんばってね」という書置きを残して別の男と駆け落ちしてしまう。天涯孤独となった住田に寄り添い、疎まれ、時に殴り合いまでしつつも住田との距離を縮めていく茶沢景子。ある事件をきっかけに残りの人生を「オマケ人生」と呼び自暴自棄になった住田を、茶沢景子は必死で励ますのだった……。
櫻井輪子(さくらい・わこ)
映画好きが高じて、コラムを書いたりもするイラストレーター。『WOWOWマガジン』『問題小説』『てぃんくる』などでイラストコラムを執筆。『Tokai Walker』の金子裕子さんのコラム「セレブ診療所」にコマ漫画を付けている。過去には『DVD&ビデオでーた』でビデオレビューのイラストコラム、『DVDでーた』で記者会見をレポするコラム『現場から櫻井輪子でした』を連載。
著書に『「へのへのもへじ」から始める 世界一カンタン! イラスト練習帳』がある。公式サイト「SakuraiWako'sめカラうりぼう」。
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