旅客機運航の舞台裏。フライトを支えるスペシャリストたちの活躍を追う:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(5/5 ページ)
1日に500便もの旅客機や貨物機が発着する日本の空の玄関口、成田空港。その舞台裏を訪ね、機長の仕事を中心に1便1便の運航を支えるプロフェッショナルたちの活躍を追った。
手渡される最後走者へのバトン
機体のノーズギア(前輪)の支柱にトーバー(牽引用の棒)が固定された。そのトーバーの反対側にトラクターが接続され、これでプッシュバックの準備もOKだ。グランドハンドリング作業のチームリーダーがドアクローズを確認した合図を送り、チョークマンがタイヤの車止めを外す。
「すべての作業を終え、こうして出発機を見送るときの達成感は、きっとほかの仕事では味わえません」
若手スタッフの1人が、スポットを離れていく機体を見つめながら呟いた。それに対して、機長もこう話す。
「離陸する前には、地上スタッフや整備士をはじめいろんな人たちの顔を思い浮かべます。日々のフライトはまさにチームワークの成果であり、リレー競技に例えるならば、私たちパイロットや客室乗務員は最後のバトンを受け取ったにすぎません。だからこそ、とても責任重大ですし、大きなやりがいを感じます」
機は滑走路のスタート位置で待機している。やがて管制塔から離陸許可がおりた。
「テイク・オフ!」
機長の口から短く発せられたその言葉は、行くぞ、という力強い意思表示だ。スポットでは、スタッフたちが「行ってらっしゃい」と手を振り続けている。その方向にもう一度目を向けると、機長はスラストレバーを押し出してエンジンを全開に。機は静かに、力強く滑走を開始した。
(次回は出発前の客室乗務員たちの舞台裏に密着、現場からレポートをお届けする予定)
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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