計測機器としてのクロノグラフ:LONGINES HERITAGE COLLECTION
流れる時間を計測するクロノグラフ機構は、特別な目盛りを加えることで計測機器としての価値が備わる。ロンジンの歴史は、こういうディテールにもしっかり生きている。
著者プロフィール:篠田哲生(しのだ・てつお)
1975年生まれ。時計ライター。講談社『ホット ドッグ・プレス』を経て、フリーランスに。時計学校を修了した実践派で、時計専門誌からファッション誌、Webなど幅広い媒体で時計記事を執筆。高級時計からカジュアルウォッチまでを守備範囲とし、カジュアルウォッチの検索サイト『Gressive Off Style』のディレクションも担当。著書に『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』(幻冬舎)がある。
ロンジンはスポーツ計時のパイオニアだ。30分積算計を備えるキャリバー19CHポケットウオッチは、1/5秒の計測が可能だったためスポーツ計時に重宝され、1896年にアテネで開催された第1回近代オリンピックでも活躍している。
クロノグラフの名門というプライド
ロンジン テレメーター クロノグラフ/1933年製クロノグラフをイメージ。ホワイトラッカーで仕上げたホワイトダイヤルには、外縁部にテレメーター目盛りを表示。さらに中央部にはスパイラルタキメータースケールが入り、強い顔を作り上げる。ブルースチール針も美しく、クラシックスタイルに仕上げている。搭載するムーブメントは、ロンジン専用として開発されたコラムホイールムーブメント、キャリバーL688。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径41ミリ。35万4900円
その後もロンジンでは、世界初の電気機械式の計測装置を開発したり、F1のオフシャルタイマーとしてレースカーに送信機を搭載する自動計測装置を考案したりと、計測機器のジャンルで能力を磨いていく。
そして磨き抜かれた技術が、腕時計の時代になっても揺るがぬ価値となり、ロンジンのクロノグラフが特別なステイタスを持つようになったのだ。
クロノグラフ機構はメカを操作する楽しさがある。しかも製造する際には優れた技術力を求められるため、シンプルな3針モデルよりも格上であり、知的階層のアイコンとして愛されてきたという逸話もある。
しかしその一方で、ロンジンでは自らのルーツを大切にしている。彼らにとっては、クロノグラフウオッチは純然たる計測機器でもある。だからこそ「テレメーター」と「タキメーター」という、2つのクロノグラフ用の計測目盛りに強いこだわりを持っているのだ。
実践的機能として進化する
ロンジン タキメーター クロノグラフ/1キロの通過時間で速度を計測する黒&青の目盛りと、100メートルで計測する赤い目盛りという2種類のタキメーターを搭載。複雑に折り重なる表示が計測機器としての存在感を高めている。このモデルのダイヤルもホワイトラッカー仕上げ。搭載するムーブメントは、ロンジン専用として開発されたコラムホイールムーブメント、キャリバーL688。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径41ミリ。35万4900円
「テレメーター」とは、光と音の使わる速度の違いを利用して対象物との距離を計測するための技術。ロンジンでは1852年に導入されている。
例えば雷がピカッと光ったらクロノグラフ機能をスタートさせ、ゴロゴロという音が聞こえたらストップさせる。そのときにクロノグラフ秒針が指し示す値で、現在地と雷雲との距離が分かるのだ。ちなみに戦時中は、敵の大砲の発火炎(マズルフラッシュ)と着弾音で計測して、敵との距離を計測して砲撃を加えていたそうだ。
「タキメーター」は、自動車などの速度を計測するための技術で、ロンジンでは1811年に導入している。1キロ進む際にかかった時間をクロノグラフ機能で計測するだけで、素早く時速が表示される。さらに工場ではライン作業の効率を調べる際にも使用される。
どちらも戦場やレース会場など、失敗の許されない場所で磨かれた技術であり、クロノグラフを単なる機械のオモチャにしない実践的な機構となっている。
ロンジンでは、計測用目盛りを搭載したクロノグラフを、創業180周年を記念してヘリテージコレクションに加えた。この2つの目盛りが備わるとドレッシーな高級ウオッチであっても高精度な計測機器へと変化する。それはロンジンの時計が、ビジュアルのためにデザインされたのではなく、機能のためにデザインされているからだろう。
ロンジンは計測機器のトップブランドだったという遺産を誇りにしている。だからこそクロノグラフ機能に本来の意味を与えることで、道具としての魅力も提案するのだ。
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