LCCの歴史を検証し、未来を展望する:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/4 ページ)
LCC(格安航空会社)はいつどこで始まり、世界にどう広がっていったのか。その歴史を振り返ることで、航空の近未来が見えてくる。LCCは格安での旅を実現しただけでなく、人々の価値観やライフスタイルをも変えようとしている。
LCCが定着することでライフスタイルに変化
過去を振り返ってみると、LCCが台頭した国・地域では、旅行者の動向や人々の生活にきわめて顕著な変化が起きていることが実証されている。アジアでは、それまではバスや船などで長時間をかけて移動していたいわゆる低所得層の人たちが、飛行機を利用できるようになった。欧米では、以前は旅行に出かける動機にはならなかったような理由で、人々の移動が始まっている。
いくつもの国が国境を接している欧州では、例えば隣の国に腕のいい歯医者がいるから月に2回程度、LCCを使って通院している──そんな人まで現れた。東欧諸国の温泉地には安い保養所が多く、英国やドイツなどからLCCを利用して気軽に訪れる人たちも増えている。コスタ・デル・ソル(太陽海岸)の玄関口として知られるスペイン南部の街マラガでは、セカンドハウスの建築ブームが起こった。LCCの路線網が広がったことで欧州の各都市からいつでも安く行き来できるようになり、別荘地としての価値が高まったのだ。LCCは、まさに人々のライフスタイルそのものを変えてしまっている。
国土交通省が2013年9月に実施したLCC利用者約1300人へのアンケートでは、6割以上が「LCCの就航で飛行機の利用回数が増えた」と回答した。ちょっと時間ができたらLCCで気軽に旅するという時代が、日本でも到来しつつあるようだ。「月末に給料が入ったら、北海道にカニを食べに行こう!」「週末はソウルでショッピングね」──そんな会話も、すでにあちこちで交わされ始めている。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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